楽しい楽しいお祭りの始まり その1
「チョコバナナいかがですかーー!!」
「ポップコーンも売ってるよーー!!」
「おいしいイチゴ飴はいかが〜??」
「ねり飴おいしいよー!!!!」
そこかしこから、自分の商品を必死に売り込もうと、たくさんの言葉がこだまする。
その声の内容はチョコバナナやポップコーンなどの有名どころはもちろん、イチゴ飴やねり飴と言うそこそこマイナーなものまでなんでもござれだ。
「みんな楽しんでんなー…………ぶっ壊してぇ〜」
ついに始まった文化祭アンド体育祭。遅刻したことを謝り、東一で店を開く教室に辿り着き、先生の話を聞いた後、俺は出店が立ち並ぶ廊下をてくてくと歩いていた。
(さて……何しようかなぁ)
前にも話したと思うが、俺は一切先生の話を聞かず、文化祭と体育祭の日程やら予定やらは何一つ理解していなかった。
つまり、俺が予定を知ったのは、ついさっきということだ。
そしてその内容は、1日目は普通に文化祭。2日目は体育祭も交えての文化祭。3日目はもう一度普通に文化祭の計三日間で行われる。
組ごとに出す店は午前と午後で従業員を交代し、みんなが文化祭を回れるシステムになっている。
肝心な俺の従業員としてのシフトは、1日目は午後に、2日目は体育祭の出場選手なのでなし、3日目は午前中だ。
体育祭に関しては、俺の知らないうちに勝手に選手として組み込まれていた。藤崎剣斗はこういうのを積極的に取り組む性格だったらしく、周りの善意(俺としては大きなお世話)で入れられたらしい。まじで俺を入れたやつぶっ殺してやろうか。
(それにしても……すごい賑わいだな)
文化祭と体育祭自体は俺も去年体験したが、今回は規模も賑わいも去年の比ではない。まるで大きな祭りがあるのかと思うほどに賑わっている。
考えてみればそれも当然、すべての養成高校から全生徒が出場しているのだ。初の試みであるこの学校行事。目をつけない人はいないだろう。
俺は辺り一面を見渡す。目に見える限り人からの立ち並ぶ店。今まで人がいる場所にあまりいなかったからか、少し頭がフラフラしてしまう。
(しっかしまぁ…………)
「あ!! 見つけた! 藤崎くぅ〜ん!!」
(なれねぇなぁ……この感じ……)
後ろから近づいてくる女子の声。それに反応し、距離を取る俺。
もうこんな行動を何回繰り返したかわからない。死ぬほど女子から一緒に回らないかと誘われるのだ。まじでひっきりなしに誘われる。今回はこの女子たちから逃げ惑いながら行動していくことになるだろう。
藤崎剣斗の肉体。たったそれだけでこれだけモテるとは……やっぱり顔か!!!! ルックスがすべてなのか!!!!
はぁ…………よし、言いたい事は心の中で全部言った。この話題はいちど置いといて…………
今回やるべき目的は、普通の生徒みたくこの祭りを堪能することではない。俺の体を入れ替えた張本人を見つける……もしくは情報を掴むことだ。
ハカセにも言われたように、この祭りには多くの客が集まる。犯人からしてみれば、俺はこの祭りに参加することなど頭に入っているだろう。客の波に隠れて俺を殺すには絶好の機会。これを逃すとは考えにくい…………
そのため、犯人はこの祭りに参加する。もしくは客として俺に近づいてくるはず。
俺もそこそこ情報を入手してはいるが、どれも犯人を断定できるような決定的な情報とは言い難い。
ここらで1つ決定的な……確定的な情報が欲しい。
欲しいのだが…………
(…………どうやって探るんだこれ)
犯人を見つけるため、あえて人混みに紛れやすそうな出店まみれの廊下に入ってみたが……これ以外にやることがない。今考えてみれば、この肉体で体育祭と文化祭をこなしながら、犯人の情報を探るのは難易度激高だ。
そもそもどうやって情報を探ればいいんだ? 元の体と違って、東ニの生徒という縛りがある。先生に怪しいところを見られれば、かなりめんどくさい展開になるだろう。
怪しいところとかそういうのもないため、捜索する場所に目星もつかない。
(マジでどうすんの…………?)
この状況の難しさに当日になってやっと気づき、どうしようかと頭を悩ませたその時。
『まずは職員室を調べろ。まずはそこからじゃ』
耳に聞こえるあの声。懐かしくも昨日聞いたあの声だ。
「最っ高だぜ…………!! ハカセ!!!!」
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