一方その頃 東京派閥

 同日、東京派閥本部…………



「ふむ……そういえば今日は文化祭と体育祭が合同で行われるのでしたな」


「おや? 外務大臣? そんなこともお忘れになられたのですか?」


「最近は忙しくてな……」


 どうやら今日も会議が行われているようで、今日から始まる文化祭と体育祭が話題になっているようだ。


「養成高校と言えば…………世界連盟が作った間違いだらけの教科書! あれは正直驚きました。まさか書いてあることの大半が数十年前の情報とは……」


「あれは世界連盟が数十年前に適当に書いただけのものですからね。スキルランクの基準だけは現代にも受け継がれ、正確なものですが、それ以外に教科書に書いてあるものは無価値です」


 その言葉に全員が同意し、話は続いていく。


「世界連盟の教科書にある情報など、数十年前の情報ですよ……例えば、マスタースキル所有者は世界に10人だけとか……世界に10人しかいないんだったら東京に7人もいるわけありません」


「しかし、それが一般人の常識なのです…………少し優越感を感じてしまいますな」


「一般人には秘匿されていますからね」


 4人で少し笑いながら談笑する。その雰囲気は会議とは思えず、まるで飲み会のような雰囲気を醸し出す。


 しばらくそんな雰囲気が続いた後、まるでそれを破るかのように、外務大臣がとある一言を放った。


「…………今回の体育祭と文化祭……田中伸太が関わってくると思うか?」


「……いきなりぶち込んできますね」


 外務大臣が言葉を放った瞬間、他の3人の体がピタリと止まる。他の3人にとっても、それは気になっていたことのようだった。


「まぁ……さすがに来ないと思います。表向きは保護対象にしているとは言え、彼は指名手配の身……そもそももう東京に来ることすら怪しいでしょう」


 外務大臣の発言に対して、内務大臣が答える。内務大臣はこない意見のようだ。


「私は……くるのではないかと思っています。もともと彼が離れた理由は、東一でのいじめによるものですからね……ある程度は関わってくるのではないでしょうか」


 次に答えたのは異能大臣。異能大臣は来る意見らしい。


「ふむ……きれいに分かれましたな。首相、あなたはどうですか?」


「むむ…………正直、わかりませんな……来るかもしれないし、来ないかもしれない…………どちらでもないとだけ言っておきましょうか」


 首相はどちらでもない。中間の意見。


「では、外務大臣は…………?」


 首相が外務大臣に対して聞くと、外務大臣は質問した首相の顔をじっと見つめて…………


「来るんじゃないですかね?」









 ――――









 その後…………



(ふむ…………)


 東京派閥の廊下を歩くのは異能大臣。どうやら何か考えごとをしているようで、手を顎につけながら、廊下を歩いていた。


「2人のあの仕草……」


 異能大臣が考えているのは、どうやらとある2人の仕草らしい。その2人が誰なのかはわからないが、その2人に対して何か気になることがあるようだ。


「……何か面白いことが起こっているようですね」









 ――――









 同時刻、大阪派閥。


「クゥーン…………」


 大阪派閥にある1つの大型マンション。とても小ぎれいなそのマンションはなんとペットOK。その分家賃は高いが、住めば充実した気持ちの良い生活ができることは間違いない。


 そしてそのマンションの中にある1つの部屋に、主人の目覚めを待つ犬が1匹。


「クルル…………」


 その名はブラック。その名前の通り体毛は真っ黒でチワワ程度の大きさの犬だ。

 もちろんこのマンションに住んでいる以上、主人がいないわけでは無いのだが…………


「クゥ……」


 現在、この犬の主人は寝たきり状態。このベッドに寝たあの日から、全く目をさまさない状況だ。


 その間の食事は、買いだめしてあったドックフードでしのいでいたらしい。そこら中にドッグフードが散乱している。


「フル……クルル」


 ブラックが主人に近づき、その舌で主人の顔をペロペロと舐める。主人の顔のベタベタさを見ると、毎日の日課になっているようだ。


 今ならばブラックが野生に帰ることは容易だろう。


 しかし、ブラックの心の中に、主人から逃げてしまおうと言う心はない。





 ただただ純粋に、主人の帰りを待って。


 

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