大遅刻
「はぁっ、はぁっ……はぁっ……はぁっ、はぁっ……」
走る、走る、走る。
一心不乱に走り続ける。こんな時、俺のスキルがあれば便利なのだが、あいにくと今のスキルはエリアマインド。全く意味がない。
「くそっ、こんのっ……最っ悪だあああぁぁ!!!!」
ことのはじまりは今日の朝。いつも通りカバンの用意を終え、先に出発したらしい妹の事など気にせず、のんきにリビングで朝ごはんを食べていた時だ。
思えばその時に気づいておくべきだったのだ。なぜ妹がいないのかを…………
リビングでご飯を食べていたとき、母親から一言言われた。
「文化祭と体育祭、東一集合だけど大丈夫?」……と。
今考えれば、養成高等学校の全生徒が集まるのだ。そんな目立つイベント、東ニで行うわけがない。東一に決まっている。
ここにきて、授業中に眠っていたことが裏目に出た。
東一は東ニからは市単位で距離がある。走って東一へ行くのは現実的ではないとわかっている。わかってはいるのだが、その場で止まることを、この体は許さなかった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………」
そんなことを考えつつも、俺は東一へ必死に走る。
妹よ、なぜ起こしてくれなかったんだ…………そんな思いを胸に秘めながら。
――――
30分後、東一校門前…………
「お兄ちゃん!! 一体何やってたの!!」
「悪い……遅れてしまった」
お前も起こしてくれなかっただろ……と言う思いはグッと押し込み、妹に向かって謝罪の言葉を述べる。
そもそも話を聞いていなかった俺が悪いのだ。妹に矛先を向けるのは間違っているだろう。
あの後、走って東一まで行くのはあまりにも現実的じゃなすぎるとわかっていた俺は、必死に頭をぐるぐると回していた。
どうにかしてできるだけ早く東一に向かわねばならない。今から電車に乗っても絶対に1時間以上は遅れてしまうし、今から家に戻って車で送ってもらうのも忍びない。
普通の学生ならば、何も思い浮かばず観念して、車で送ってもらい2回戻るだろう。
しかし、数多の戦いの中で進化した俺の頭脳は、天才的すぎる考えを可能にした。
そこで考えたのが、エリアマインドを自分のカバンに使ってカバンを浮遊させ、その上に乗り、移動する方法だ。
しかし、自分から5メートル以内に離れると、浮遊が解除されてしまう。
しかし、カバンの上に乗ることで、時速70キロで移動しつつもカバンから離れずくっつくことが可能。
そんなわけで、何とか30分で東一に到着できたわけだ。
「さて、相当遅刻してしまったし……早く行こう」
妹との話をさっさと切り上げ、東一に向かって歩き出す。
「………………」
俺の足取りは今までより重い。
今から入る場所は東一。俺にとっては因縁深く、俺を強くしたきっかけを作った場所。
そんな場所が今、出店やなだれ込んでくる人たちで賑わい、異常なほどの盛り上がりを見せている。
(…………気に入らない)
俺にとっては悪夢の場所が、周りにとっては幸せな場所なんてつまらない。ニコニコと笑う何の関連性もない家族や生徒たちを見るたびに、イラつきがどんどんたまっていく。殺意じみたものがどんどん膨れ上がっていく。
(今は我慢だ……今は…………)
そう、今はこの膨れ上がっていくものを爆発させる時ではない。
この膨れ上がっていく殺意を……ため込むべき時なのだ。
(お兄ちゃん……なんだか……顔怖いよ………)
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