狙うべきは
俺の目の中に入った奇妙な女の子の写真。それは不気味さを感じさせると同時に、これと俺の現場にどういう関連性があるのかと興味をかき立てた。
「……ハカセ。これは一体どういう……」
「まぁ、説明を聞かんとそうなるじゃろうな……いいか? この写真は…………」
いつにも増して真剣な雰囲気を醸し出すハカセ。俺はその雰囲気にゴクリと喉を鳴らし、次にハカセの口から放たれる言葉を待つ。
やがて、ハカセの口から放たれたのは…………
「お前と同じ被害にあった、あってしまった……たった1人の女の子じゃ」
「…………おおぅ」
(あっ、しっかり真面目な話なのね……)
予想以上に重かった。普通はこういう覚悟を決めた場面では、逆に面白おかしいことを言うのが鉄板だと思ったのだが、現実は全く違うらしい。しっかりと真面目な話だった。
(まてよ……? 俺と同じ被害に……?)
俺と同じ被害。その話を聞いた俺は、すぐにピーンときた。
「ハカセ、これって…………!!」
「うむ……オヌシと同じ被害……体を入れ換えられた女の子の体じゃ」
(やっぱり……!)
まさかと思っていたが、やはり体を入れ替えられていた。そして舌を出し、四つん這いになっているその姿…………
「これ、もしかして…………犬と入れ替わったのか?」
「…………うむ」
なるほど、俺と違い、犬と入れ替えられているだけで、確かに同じ被害だ。
「だが、これを俺に見せて一体何を「この子をこんなふうにした人物とオヌシをこんなふうにした人物は同一人物じゃ」……何?」
俺の体を入れ替えた人物と、女の子の体を入れ替え人物が同一人物。そのことを聞いてからの俺の行動は早かった。
「なんでだ? なぜ同一人物だと言い切れる?」
スキルが似ているだけで、全く違う人物かもしれないと言う可能性がある以上、ハカセがそこまで断言する理由がわからない。そこを聞かねば、こちらとしては納得できない。
「日時じゃ」
「日時?」
「うむ、この子が入れ替わって、元に戻った日……それがちょうどオヌシが入れ替わった日の1日前じゃ」
(……なるほど)
「ワシはこれに関連性がないとは思えん。確実に同一犯の行いじゃと確信しておる」
なるほど。それならば納得ができる。ハカセ以外がそれを知ったとしても、俺の入れ替わりと何かしら関係があると思うだろう。
「俺と同じく被害にあったって事は……この子も誰かから恨みを買って……」
「いや、この子は誰からも恨みのようなものは買っておらん」
「……なんだと?」
これは予想外だ。俺の考えでは、藤崎剣斗しか被害者がいないこともあり、被害に遭う人物は恨みを買っていた人物だと予想していた。
なので、この女の子を何かしらの恨みを買っていたと想定したのだが…………
しかし、ハカセの口から出てきたのは、予想外の恨みを買っていない発言。それが本当なのなら、俺の予想が完全に破綻してしまう。
(普通ならば、そんなわけあるか!! と言いたいところだが……ハカセが騙されて偽の情報を持ってくるとは思えない……)
俺はハカセの情報の正確さや情報を持ってくるスピードには全幅の信頼を置いている。それゆえに、俺の脳はハカセを疑うことを本能的に拒否した。
「…………じゃあ、その女の子はなぜ体を入れ替えられたんだ?」
俺が考えているのはそこだ。そこがわからなければ、ハカセを信じている俺でも、その情報は信じ切れない。俺の脳は8割がたその情報を信じている。だがあと2割。あと2割を信じさせてくれる発言が欲しい。
「……ない」
「……は?」
「なかったんじゃ……何かしらの恨みも、そう思わせるようなポイントも……何一つ……」
――――
一方その頃…………
とある建物、そしてその中の1つの部屋。その部屋に入るためのドアは他とは少し違っていた。
見るもの全てを威圧するような、大きな大きなドア。それは近寄り難く、見るだけで、このドアの向こうには高貴な人物がいるのだと予感させる。
そんなドアの前に……私、藤崎登子は立っていた。
「……どうぞ、藤崎先生」
「は、はい……失礼します…………」
ドアの奥から聞こえてきた声に、私は恐る恐る反応し、ゆっくりとドアノブをひねる。
普通、ドアノブをひねって開ける音と言うのは、ガチャリと言うのが普通だが、今回の音は他とは違い、ゴチョッというか、ゴチャリというか……どことなく、重厚感が感じられた。
そんな重厚感のあるドアを開け、そこで私を歓迎? してくれたのは……
「お久しぶりですね。藤崎登子さん」
「…………お久しぶりです。異能大臣」
あの異能大臣だった。
そもそも、なぜ私が異能大臣と会うことになったのか。それは少し前に遡る…………
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