不可解

「流石ね。その剣さばきを見ていると、相手側がかわいそうに思えてくるわ」


「いえ…………友隣ちゃんも強いですよ」


 フォローのつもりなのか、頭を下げてぼそぼそと言葉を放つ。そう言われても、その友隣さんはボロボロの状態。所々に打撲痕や本当に模擬刀で訓練していたのか疑ってしまうような切り傷もできている。


「いや……その友隣さんがあんな状態なんだけど……」


「まぁ……はい……」


 私と桃鈴さんの間に表現するのが難しい微妙な空気が流れる。簡単に言うと気まずい。喋ることがなくなってしまった。


「…………あの、喋ることがないなら訓練に戻っていいですか? ……時間が惜しいので」


「あ、そうね……何かあったら、何でも相談してちょうだい」


「……はい」


 桃鈴さんは気だるそうに返事をするとすぐに自分の持ち場に戻ってしまった。相変わらずの無愛想っぷりだ。


(…………噂とは随分違ったな)


 彼女と知り合う前、デュアルハイパーとしての噂をいくつか聞いたことがあった。


 曰く、とても明るく笑顔を振りまき、分け隔てなく様々な人と接する。


 曰く、自分が手を下さなくても良いように、軍団を築いている。


 曰く、天賦の才を持った超人である。


 その他にもいろいろな噂が絶えないが、そのほとんどは明るめなものばかりで、噂特有の黒い噂と言うものがあまり回ることはなかった。


 しかし、実際見てみれば、明るくも何でもない。様々な人に笑顔を振りまくわけでもない。それとはまったくの真逆。どちらかと言えば、クール、ダウナー。その言葉が似合うような無表情を見せていた。


 そのことが気になり、私は一度、桃鈴才華のクラスの担任に質問したことがある。彼女はいつもこんな感じなのかと、今までもこんな感じだったのですかと。



 それに対する担任の答えは…………



『いやぁ〜……前はそんなんじゃなかったんですけどね〜』



 と言う、どこかふわっとした言葉だった。


 そこからさらに話をしてみると、ふわっとした言葉だけではなく、色々と面白い話を聞くことができた。


 担任が言うには、前までは噂通りのフレンドリーな子だったらしい。

 しかし、ある任務を境に彼女は急変し、無表情でそっけない態度になったようだ。



 そして、そのある任務というのが…………



(東京代表の護衛任務…………)



 東京と神奈川。大派閥2つが手を組んだ大ニュース。その時の東京代表を神奈川まで護衛する任務に彼女がついていたことがわかった。 


 そして、東京と神奈川の同盟といえば、いの一番に思い浮かぶのはあの出来事。


(黒ジャケット…………)


 あの時、彼女の中で何かがあったのかもしれない。









 ――――









「…………久しぶりだな、ハカセ」


「ワシに気づくその観察眼…………やはりオヌシが伸太で間違いなさそうだのう」


 体中が隠れている黒のローブ。顔を覆い隠すようなペストマスク。

 正直、電話で連絡してくると思っていたので、まさか実際に来てくれているとは予想外だった。


「……それで……何か掴めたのか? まさかただ再会するために来たわけじゃないだろう?」


「まぁな…………だが、ここで話すのはまずい。少し移動するぞ」


「……おう」


 その後、数分間移動した俺たち2人は、個室の食事処に入って適当に注文し、向かい合って座っていた。


「…………まぁ、ここなら聞かれる心配もないじゃろう……よし、改めて……久しぶりじゃな、伸太」


「ハカセも元気そうで何よりだ」


 俺とハカセは個室で、お互いに再会を喜びあう。ハカセもペストマスクで顔が見えないが、心なしか笑っているような感じがした。


「再会祝いじゃ。ここはワシが奢ろう」


「サンキュー」


 最初の会話が一段落ついたが、俺が聞きたいのはそれではない。俺は間髪入れず、本題について話し始めた。


「なぁハカセ」


「まぁそんなに急ぐでない……情報じゃろ? 話してやるから落ち着くんじゃ」


「わ、悪い……」


 ハカセの言うとおり、今の俺は少し焦っているらしい。一度深呼吸をし、心を落ち着かせる。


 そんな様子を見て、ハカセも遂に言葉を発した。


「情報を話す前に言っておくが…………伸太、今回の出来事はただの出来事ではなさそうじゃぞ」


「……何?」


 ハカセはそう言うと、1枚の写真を懐から取り出し、スッと俺に渡してきた。


(なんだ……?)


 俺は写真を受け取り、その写真を見てみると……


「…………これは」


「言ったじゃろう? ただの出来事ではないと」


「ただの出来事ではないというか……これは……奇妙だな」


 その写真に写っていたのは、体を四つん這いにし、ベロを出した女の子の姿だった。



 

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