再会

(…………)


 つけられている。そう気づいたのはついさっきまで取り組んでいた体育の授業の時だった。









 ――――









 時は午後の授業にまで遡る…………



 手当たり次第に物体を持ち上げていた時、俺は何か奇妙な感覚を感じとった。

 先に言った通り、このスキルは持ち上げた物体の感触を感じ取ることができる。感覚としては、手で触っているような感覚を得ることができるのだ。

 俺はその時、とある感触を感じたのである。


(…………ん?)


 ついさっきまでの用具や、体育の授業の舞台である馬鹿みたいに広いグラウンドに散らばる小石の感触とは打って変わって、異様に冷たい感覚が走る。それはとてもツルツルで、鉄の球体のような肌触りがした。


 そしてそれが、グラウンドの地面の中にあったのである。


 掘り起こそうとしても、謎の力のようなものが発生し、掘り起こせなかった。









 ――――









 鉄のように冷たく、球体で、謎の力が発生する物体。


 そんなものを持つ人物など、俺は1人しか知らなかった。






「…………何を遊んでるんだ? ハカセ」






「……どうやら本当に本物のようじゃのう」






 懐かしいペストマスクが、ようやく姿を現した。









 ――――









 母親視点。


 東京派閥。日本でも有数の大派閥の1つ。数多の兵士が排出される養成高校の体育館。そこで私は周りで悪戦苦闘する生徒たちに指導を行っていた。


「ほぅ〜らそこ!! サボらない!」


「はい! すいません!!」


「そこはもうちょっとスキルの使い方を工夫して!! ありきたりにならない!!」


「は、はい!!」


 藤崎登子。年齢41歳。子供2人を持つ元兵士。兵士を辞めてからは、兵士時代に稼いだ金と、東京派閥から最近依頼された今の兵士への指導で生まれる給料で生活をしている。


「はい!! 次は実践的な訓練をやってみましょう!! 準備して!!」


 私は手をパンパンと叩き、生徒たちに訓練を変えることを伝える。

 今は現役を退いた私だが、当時はそこそこ強かったのだ。



 …………スキルもハイパーだし!!!!



 というか、そこそこ強くないと、東京派閥から私個人に依頼なんて来るはずがない。あの頃はちょっと周りがおかしかっただけで、私は強かったのだ。


 そんなこんなで、今の私は体育教師のようなことをして、お金を稼ぐと同時に、東京派閥の未来をになっているわけなのだが…………



まぁ……それにしても…………



(最近の子は……ほんとすごいわね……!!)



 今年だけなのかもしれないが、生徒一人ひとりのレベルが軒並み高い。スキルも身体能力も……あと発育も。初めて見た時は驚いたものだ。気に入らないと言うわけではないが。


 しかし、しっかりと弱い部分は残しており、強いスキルに頼りすぎて、細かい動作がおろそかになったり、スキルの使い方に工夫が見られなかったりと、戦場において重要な部分が欠けている。

 そういうところを直していくのは、中中にやりがいのある仕事だ。こちらもいい運動になる。


(私のスキルの性質上、別に運動する必要ないんだけど……)


 ないよりはマシだろう。


(そういえば……)


 朝起きたとき、なぜか棚の中身がぐちゃぐちゃだった。私が酔ってふざけたのかと思ったが、昨日の夜は酒を飲んだ覚えは無い。

 だからといってうちの子供たちがそんなことをするとは思えない。自分で言うのもなんだが、うちの子達はできる子達なのだ。


(……っと、いけないいけない。今は仕事中…………)


 顔をブンブンと振り、自分の体に喝を入れ直す。すでに生徒たちは2人1組になり、自分たちだけで1対1の実践的な訓練を行っていた。


 体育館と言う閉鎖的な空間でスキルも入れた訓練をやっていいのかと思う人もいるかもしれないが、この体育館はただの体育館ではない。まるでゴルフ場かと思うような広さとただでは壊れない頑丈な作りになっているのだ。


 周りを見渡すと、炎を使って自分の姿を隠したり、水で自分の分身を作ったりと、そこそこの工夫をしているのが見てとれた。さすがは今の子。とても優秀である。


 そして、その中でも特に目を引くのは…………


「ふっ! ハァ!」


「おっ……やってるやってる……」


 私の目に映るのは、剣を振り、相手に向かって斬りかかる1人の少女。


 小柄な体型、おおよそ筋肉がついているとは思えない二の腕。それらからは一見、強さと言う部分は感じられず、どちらかと言うと女の子らしい、華奢な感じが見受けられる。


「シッ! フッ!!」


(相変わらず…………ほんとにきれいな剣さばきねぇ……)


 しかし、そんな女らしい体から繰り出されるのは、美しくも荒々しい。それでいて相手への殺意が溢れる剣。


 私は剣を使っているわけではない。どちらかと言うとナイフや小刀を使うタイプだったし、知り合いに剣使いがいるわけでもない。

 逆に言えば、そんな素人の私でも美しく、それでいて実践的だと感じる動きをしている彼女は、それほど凄いと言うことだ。


 じっと眺めていると、訓練が1段落を終えたようで、くるりとこちらに視線を向け、こちらに近づいてきた。


「さすが、いつでも絶好調ね」


「…………いえ、そんな、別に」


「ふふっ……ごまかさなくてもいいわよ? Whyper《デュアルハイパー》」


「…………」


 私の前にいたのは、小柄で寡黙な少女、桃鈴才華だった。

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