誰だ

 今、俺の頭の中には、色々な感情が渦巻いていた。


 怒り、悲しみ、苦しみ、悲壮。


 そんな暗い感情とは裏腹に。


 歓喜、歓喜、歓喜、歓喜、歓喜。



 ようやっと、アイツを――――



「おい! 大丈夫か! おい! 剣斗!」


「……あ?」


 なんだ? せっかくこっちがいろんな感情に浸ってるって言うのに…………


「……んだよ」


「なんか最近ぼーっとしてないか? ここ最近、午後の授業も身が入ってないっていうか……」


「いや…………少し明日のことが気になってな」


 おっと危ない。どうやら少しぼーっとしていたようだ。

 文化祭、体育祭の話を聞かされたあの後、午後の授業になり、体育の授業が始まった。東一の時もそうだったが、5〜6時間目には必ず体育の授業がある。あの頃は本当に後片付けの番人だったので、俺にとっては体育の授業などあってないようなものだった。

 なので、この時間はあまり問題視していなかったのだが…………



 しかし、俺は想定していなかったのだ。



 この体が誰のものなのかを。



(しんっど…………)



 この体はイケメンハイパースキル保持者の肉体。そのことを頭に入れていなかった。


 初めて午後の授業を迎えた時は地獄だった。慣れない周りからの視線。そこに込められる期待。何もかもが初体験。見ている側うらやましいと思って止まなかったのに、いざ見られる側になるとここまで辛いものはない。


 もう何回かこの時間を過ごしたが、片手で数える程度で慣れるものではない。

 しかもこの時間は注目される。注目されると言う事は、俺と藤崎剣斗の違いを見分けられやすくなると言うことだ。


 事実、この時間には何回も大丈夫かと聞かれている。何とかして乗り切らないといけないのだが…………


(ここしばらくはごり押しで行くしかないな……)


 藤崎剣斗の言霊を利用した力押し。相手の言葉に対して、「問題ない」と返すことによって乗り切る。しばらくはこれでどうにかなるだろう。


(あとは…………)


「「「「キャーーー!!!! ステキーー!!!」」」」


「すげえ……!! やっぱりすげえ!!!」


「俺もいつか……あんな風に……!!!!」


 エリアマインドでそこら辺の岩やらコンクリートの破片やらを宙に浮かせ、人に当たらないように四方八方に飛ばす。こうすることによって、このスキルの理解を深めると同時に、人に話しかける時間を与えない作戦だ。


 これによって分かったことだが、このスキルは持ち上げたものに感覚が付与されるらしく、持ち上げたコンクリートの破片に見つかったものの感触がわかることが発覚した。


(まぁ、わかったのはそれだけなんだけど…………)


 俺はスキルを使い続け、どうにか今日も乗り切ることに成功した。









 ――――









 その後、下校の時間になり、ゆっくりと家への道を歩んでいた。


「今日も疲れた…………」


 とにかく周りの視線がひどすぎる。もう少し見られる側のことも考えてくれ。


 動かすたびにだるさを感じるその肉体。すぐにでも家に帰って、体をほぐしたいところなのだが…………





(…………いるな)




 後ろから感じる何者かの気配。





 後ろに…………誰かが…………




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