忍び足

(あの視線…………まずはどこから見られたかだな……)


 俺は、あの視線がどこから放たれたのか、その人物がどこにいるのかを考えていた。


(普通に考えて、室内にいた俺を見るとしたら、同じ室内にいないといけないが……それはないな)


 そんなことをすれば、家族から見つかることは間違いない。家族もグルで協力して見ていたとしても、俺自身が見つける可能性が高い。そんなリスキーな策を相手が使うとは思えない。


(となるとやはり…………)


 スキルを使用し、外から見ていたに違いない。というかそれで確定だろう。

 遠くを見たりするスキルはさほどレアではない。ハカセのスチールアイのように、鉄を通して見たりする特殊な例でなければ、そこら辺にごろごろと存在する。


「…………」


 だが、問題は、敵のスキルがその特殊な例かもしれないということだ。


 よくある遠くを見るスキルは千里眼。ただ単に目を使って遠くを見るものが多い。

 しかし、さっきは角度的に窓から俺の姿を見ることはできなかった。


(単純な千里眼スキルじゃない…………透視か何かか?)


 とりあえず、敵の見ていた場所は外で確定だ。


(そして次に……今回の任務で妹の犯人説は一気に深まったな)


 俺は元々、家族が犯人なんじゃないかと疑って行動していた。そして妹の部屋に入ろうとした瞬間に視線を感じ、妹にばれてしまった。



 …………そんな都合のいいことがあるだろうか?



 俺が妹の部屋に立った瞬間、たまたま犯人が俺を見つめて声を上げ、たまたま妹が起きてたまたま発見される。


「…………間違いなく偶然ではない」


 妹を守ろうとして起こした行動。あんなことをする理由なんて、妹のスキルを見られたくないから以外にない。


 しかし、なぜ母親は守らず、妹は守ろうとしたのだろう。


 考えられる理由は2つ。家族の中で妹1人が犯人であると言うことと、母親も守りたかったけど守れなかった。この2つだ。


 今のところはどちらも同じ位の可能性がある。どちらも否定できる理由がない。


(とりあえず…………今回で妹が犯人の線はよりいっそう強まったな)









 ――――









 次の日。


「…………」


 俺は自分でもわかるほど疲れた表情で席に座って授業を受けていた。もちろん授業の話など聞いてはいない。


 そんなことよりも、俺の頭の中は昨日のことでいっぱいだ。


 あの後、結局結論が出ず、ベッドに入って眠った。


 昨日の1件で、外部にも敵がいるということが判明した。そしてその敵は俺の家を知っている。


 何が目的かはわからないが、俺にとってよくないことが起こるのは確実だ。


(…………そもそも、なぜ犯人は俺と藤崎剣斗の肉体を入れ変えたんだ?)


 最初の頃は、藤崎剣斗に対しての何かの恨みだと思っていた。

 しかし、時間が経てば経つほど、本当に不満があったのかと考えてしまう。


 周りの人間の自分に対するフレンドリーさ、スマホの連絡先の多さ、授業ノートのきれいな文字。


 考えれば考えるほど、藤崎剣斗がそこまで問題を抱えた人物だとは到底思えなくなってきた。


(くそっ…………いくら考えても、確信を得れるほどのものがない……)


「おーい! 剣斗ー!!」


「……ん?」


 そうやって考えていると、クラスメイトである男子生徒が1人、俺に向かって……いや、藤崎剣斗に向かって話しかけてきた。


「……おい。今は授業中じゃないのか?」


「おいおい……先生の話を聞いてなかったのか?」


「…………? 何かあったのか?」


「ほんとに聞いてなかったのかよ……いいか? 明日から……」


 俺は男子生徒の言葉を聞いているふりをしつつ、脳を再び回転させ始める。男子生徒の話す言葉など、どうせくだらない学校行事だろう。そんなことを聞くよりも、今後のことに脳を使った方がよっぽどいい。


(さて……早速今日起こす行動についてを…………)







「すべての養成高等学校を交えた体育祭と文化祭が始まるんだよ!!!!」







「………何?」







 不意に飛び込んできた興味深い言葉。それは聞くふりをしていた俺の耳にもしっかりと入り込み、思考を男子生徒側に向けさせるのに十分なパワーを持っていた。


「……どういうことだ? 1年前まではそんなのなかっただろ?」


「いや、そうなんだけどよ……今年から始めるらしいぜ?なんでも同じ養成高等学校どうしでも、仲間意識を高めるとかなんとか………… それで面倒だから、体育祭と文化祭を一緒に行うって…………1週間前から話されてたぞ?」


「…………」


 俺が話を聞いていないうちに、まさかそんなことが進んでいたとは。


「俺も正直驚いたけどよ! よく考えてみれば東四の"四聖"にも会えるし、東三の"最年少master"にも会えるし……いいことずくめ!」


「…………そうだな」


 俺は男子生徒の言葉に対して、適当な言葉を返し、体育・文化祭について考えていた。


(…………すべての養成高等学校? ……てことは……)




 つまり…………つまり…………




「あと、やっぱりWhyper《デュアルハイパー》だよな! あの子に出会えると思うと、今からでも楽しみだぜ!!」



 あの幼なじみも、参加する。



 





 俺は耐えきれるのだろうか。








 この溢れ出る殺意に。





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