一方その頃……浅間ひより
伸太がハカセに電話をかけたのと同時刻……
「や〜っと着いたぁ〜……!!」
彼と別れた次の日の昼。スキルで空を飛び、大幅ショートカットしてようやく神奈川へとたどり着いた。
私は着地したビルの上で、ぐぐっと大きく背伸びする。
久々の帰還。それによる高揚感で、一度大きく深呼吸すると、わが故郷である神奈川の臭いが口から鼻に大きく広がる。1ヵ月しか離れていないのに、その匂いが妙に懐かしい。こんなにも懐かしい気持ちになっているのは、大阪で濃い毎日を過ごしてきたからに違いない。
「今思い返してみれば……毎日大変だった……」
ある時は食料不足で死にそうになったり、ある時は男の家に拉致されたり、ある時は牛に殴り殺されそうになったり……私の人生史上一番大変だったのは間違いない。
…………そして、1番"自分の居場所"を感じられたのも。
「…………駄目だ!駄目駄目!!」
私はもう子供ではない。神奈川の最高戦力、立派な兵士なのだ。今は神奈川が私の居場所。大人なら、我慢しなければならない時がある。
さて、そろそろ神奈川本部に帰るとしよう。
「そろそろ来るはず……」
「お待たせしました。浅間様」
私が立っているビルの屋上に落ちる、1つの黒い影。それはビルに着地すると、こちらに礼儀よく挨拶をし、敬語を使って喋りかけてくる。
「相変わらずですね」
「浅間様こそ、お元気そうで何よりです」
彼女は案内人さん。任務の時に帰ってきた兵士を出迎えてくれる方だ。表向きは兵士の容体をいち早くチェックするためらしいが、本当は数少ない男を兵士に入れるための誘惑。優秀な男を育成するためだ。
何故案内人をつける事が優秀な男兵士を育成する事に繋がるのか。
それはとても簡単で単純、色仕掛けだ。
自分が任務を終了して、神奈川に帰った後、美人の女が出迎えてくれる。さらに帰った後も女だらけ。いくらでもハーレムを体感する事ができるとあらば、それに飛びつかない男はいない。
そうやって、兵士に対して興味のなかった神奈川の男を活発にさせ、訓練を積ませれば、優秀な兵士を作れると言うわけである。
実際、数は少ないが成功した例はある。
と言うわけで、任務から帰ってきた時には、女の案内人が設けられることになった。
「では本部に帰りましょう。長官もお待ちです」
「……ええ」
――――
「…………」
ついにたどり着いた。神奈川派閥本部。それは大阪ほどの大きさではないが、とても巨大な建物でできている。
大阪の様にたくさんの建物が隣接している感じではなく、1つの超巨大な建物がドカンと立っている感じだ。
「さぁ速く。長官を待たせてはひどい目にあいますよ」
「ええ、わかってますとも」
私は神奈川派閥本部に入り、スイスイと廊下を移動していく。本部は何回も来た事があるので、長官がいる部屋への行き方も体が覚えているのだ。
途中、チェス隊で見た顔もあったが、今の私には関係ない。
……私も変わったものだ。他のチェス隊団員に会えばいつも下手に出ていたものだが……大阪での生活は、私の心を強くしたらしい。
そんな事を考えているうちに、重官がいる部屋のドアの前までたどり着いた。
私は2回ノックを入れ、返事が聞こえると、ドアノブを回して部屋に入った。
「……任務完了、お疲れ様、浅間」
「斉藤さん……?」
しかし、そこにいたのは長官ではなく、黒のクイーン、神奈川序列2位である斉藤美代だった。
「……何故美代さんが?」
「まぁまぁ、そこは一度置いておいて」
(置いておけるものじゃないんですけど……)
「それにしても……よくあの任務を達成出来ましたね……素直に尊敬しますよ」
「……まぁ」
実際のところ、任務を達成した覚えなんて1ミリもないのだが、そんな事を言ってしまえば騒ぎになる事間違いなし。ここは黙っておくのが正解だろう。
「本当によく出来ましたね……」
「"大阪派閥の動物スキルについての秘密の解明"……私でもできるかわからないのに」
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