探り
「はっ……はっ……はっ……」
俺は今、学校を早退し、全力でダッシュしながら帰宅の道を走っていた。
あの後、その場で早退を許可してはもらえず、さすがに保健室に一度行くことになったが、俺の必死の訴えにより、保健室の先生に直々に許可をもらったのだ。
そして、急いで家に帰っているわけだが………
(それにしても速いな……)
足が明らかに速くなっている。まるで陸上選手の様だ。前の体ではスキル無しで50メートル走8秒後半、女にも負けるレベルだったが、今は肉体が変わっているせいかめちゃめちゃに速い。今なら6秒台も出せそうだ。
(……ちっ、不平等だよな………)
こんな所でも、世界の不平等さを体感しつつ、ついに家にたどり着き、持っている鍵を使って家に入った。
両親はどちらも働いているため家にはいない。情報を集めるのにはこれ以上ないチャンスだ。
「まずは……!」
俺の部屋に入るやいなや、すぐにカバンを放り捨て、勉強机の引き出しやベッドの下を探しに探し、目当てのものを見つけるために尽力する。普通に親がいる時にしてしまえば、物音でばれるかもしれないが、今は関係ない。思う存分音を立て、探すことが可能だ。
そして、10分ほど経った後………………
「見つけた………!」
ついに発見した1枚のカード。それは俺と言う存在を明らかにするのに必須なものであり、俺のこの体に変わった秘密を暴き出す第一歩。
そのカードとは………
「保険証………! こいつが必要だったんだ……!!」
保険証。人間ならば誰しもが持っている自分が自分だと証明する1枚のカードだ。高校生にもなっているなら、自分で保険証ぐらい持っていると思い、自分の部屋を探してみたら、案の定見つかった。
何故保険証が欲しかったのか。それは俺の今の現場に関係している。
保険証はその人物の生年月日等、その人物にとって重要な情報が多く記載されている。そして10年ほど前、保険証に新しく、"スキルの情報"が記載されたのだ。
今の俺はこの体のスキルを知らない。ならば、この体の元の人物の保険証をチェックすれば、最速で誰にも気づかれることなく、この体のスキルを知る事ができるのだ。
「さて、早速………」
俺は早速、保健証に書かれているスキルの欄を見た。
スキル名 エリアマインド
使用者
スキルランク hyper《ハイパー》
内容
自分から半径10メートル以内の物を自由に動かす。
「………!!!!」
俺は保健証に書かれていたスキルとその内容に、驚愕を隠しきれなかった。
まさかのハイパー。まさかこの体が世界でも有数のスキル保持者の体だったとは思わなかった。
しかもそのスキルの内容もかなりのもの。半径10メートル以内のもの好き勝手に動かせるのはかなり凶悪だ。
瓦礫等の重くて硬いものを敵にぶつけて攻撃するもよし、自分の体を周りの物体で守るもよしの万能スキル。肉体を強化するスキルではないため、中遠距離からチクチクと攻めるスキルだろう。
「なるほどな……だからみんな俺を特別視してたのか……」
ここまでのイケメンでここまでの強さのスキル。みんな俺を見る目が違ったのは、ハイパーと言うブランドも合わさっていたのだ。
早速、エリアマインドを試すため、ついさっき放り捨てたカバンを標的にし、持ち上げられるか試みる。こういうのは浮かべと念じれば浮かぶだろう。
俺は頭の中で、カバンに浮かべと命令し、どんな感じに浮かぶのかを検証する。
「おぉ……! すげえ……!!」
その結果、カバンはゆっくりと地面を離れ、ふよふよと空中に浮遊した。
(なるほど……ゆっくり浮かぶ感じか………)
俺は次に、カバンに向かって早く動けと念じる。
すると、カバンはそれに呼応し、右へ左へとなかなかの速度で動いた。
(速度は時速100キロ位か……まぁ申し分ないな)
俺の反射と闘力操作のスピードを見た後では、時速100キロであろうと物足りなく感じてしまうが、普通に見ればありえないほど速いスピード。どんなに大きな瓦礫でも、空中に浮遊させて時速100キロで飛んでくると考えればものすごい脅威だ。
「とっと…………」
危ない。スキル検証に夢中になりすぎて、このまま時間を使ってしまうところだった。せっかく作った時間なのだ。無駄にせず、余すところなく使いたい。
俺はスキル検証を切り上げ、学生服から私服に着替えて外に出た。
授業で考えている時に、放課後では知り合いに出会ってしまう可能性があるため、情報を集めるのは難しいと言ったが、今回は話が別だ。今は早退し、知り合いもほとんどが学校に行っているか仕事に行っているかだろう。
しかし、肝心の情報の集め方がわからない。スキルで素早く移動できない以上、集められる範囲も限られている。
つまりはできるだけ無駄足を減らすしかない。
減らすしかないのだが…………
(どこを中心的にすればいいかわからない以上、無駄足を減らす事なんて………)
絶対に不可能。ぶっつけ本番の範囲が発表されていないテストを勉強しようとするようなものだ。必然的に無駄足が生まれる。
(何かないのか………? ここは東京、東二……何か良い方法は……)
「……あ」
その瞬間、俺の脳に電撃が走る。なぜ電撃が走ったのかと聞かれれば、それはもちろん、俺の頭の中に名案が浮かんだからだ。
俺のこの案がうまくいけば、時間関係なく、数分で大量の情報を入手することができる。
「信じてもらえるか怪しいが……」
俺はスマホを取り出し、とある人に電話するため、ポチポチとボタンを押して電話をかける。
俺の現状がこんな事になっているので、信じてもらえるかが不安だが、そこは俺の話術でどうにかするしかない。
そんな事を考えていると、ついにとある人物と電話がつながった。
『……用件は?』
俺は、久々に聞くその声に少し感動を覚えながら、意を決して言葉を発した。
「久しぶりだな、ハカセ」
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