始まりの東二
「東二……!?」
俺が目の前で目撃した建物。それはほぼ間違いなく、俺が東一時代に見た事のある東京第二養成高等学校。通称、東二と言われる学校だった。
「も〜! 何ぼーっとしてるの! 早く行こ!!」
俺は妹らしき人物に腕を引っ張られ、東二に向かって行く。普通ならドキドキしてしまう様なシチュエーションだが、今この場に限っては、頭の整理に時間がかかり、反応できなかった。
(だって……だって……)
だって……ここに東二があるって事は……
(ここは……東京ってことじゃないか……!!)
とんでもない真実。そして生まれる疑問。
通常、大阪から東京へ1日なんて、閉鎖されている場所等の問題で現在は不可能。少なくとも3日はかかる計算だ。それを眠っている6〜7時間の間に移動するなんてもってのほか。
(そして……それを可能とするのは……)
「「「「剣斗くぅ〜ん!!!」」」」
「うるさっ……」
「ゲッ、忘れてた……」
俺の中で考えがまとまりそうだったその時、耳から俺の脳へ入ってくる爆音。その音は、俺の考えをリセットさせ、考える時間をドブに捨てさせた。
「お兄ちゃん!! 逃げるよ!」
「え? え? 何が……」
「いいから早く!!!」
俺は妹らしき人物に腕を引っ張られ、一気へ校内に駆け抜けていく。周りには俺を追いかけてくる無数の女。
「おい! 一体どうなってるんだ!!?」
「お兄ちゃんが調子に乗るからこうなったんでしょ!? いいからとっとと逃げるよ!」
――――
(……くそっ……何が何だかわからない……迷子にでもなった気分だ)
俺は今、教室に並べられた机と椅子の1つに座り、もう二度とすることがないと思っていた授業を受けている。
あの後、俺の妹らしき人物がそのまま教室へ連れて行ってくれたため、誰かに自分のクラスを聞くことなく、自分の教室へたどり着くことができた。
(俺の教室は2の4か……)
覚えておこう。
「……で、あるから……」
(……懐かしいな、こうやって話を聞くのも)
久々の授業は、俺の心をとてもノスタルジーな気分にさせてくれる。例えるなら、なかなか会えない祖母と話しているような気分だ。
内容は東一時代と同じく、半分以上がわからないが、とにかくノスタルジー。この懐かしさにひたっていれば、今日1日は乗り越えていけるに違いない。
40分後…………
「…………飽きた」
1時間目が終わって10分休みの途中、俺はあまりの退屈さにぼそっとつぶやいてしまった。
勉強と言うのはなんともつまらない。これならば、敵のスキルを考えている時の方がよっぽど楽しい。俺の生活上、授業と言うのは時間の無駄すぎるのだ。
(授業中の時間の使い方を考えないと……)
「あの……剣斗さん?」
後ろの方から声が聞こえる。大阪での生活なら、後ろから声をかけられると身構えるところだが、ここは学校と言う公共施設。身構える必要性は無しだ。
「はい?」
俺は声のした方向へクルリと振り向き、視線を向けると……
(うおっ……!!)
そこにいたのは、まるでおとぎ話のヒロインかと思うほどの美女3人。黒髪で胸が大きい女はこちらを睨みつけ、小学生と思うほどの低身長で白髪。頭には特徴的なウサギの耳が生えている女はこちらに期待の視線を向けており、こちらに話しかけたのだろう金髪の女は、とても優しそうな目で俺を見ていた。
「あの……昨日の雑誌見ましたか!? 私、映ってたんですけど!!」
「私も映ってたぴょん! 見て欲しいぴょん!!」
「ふ、ふん!! 私は……別に……」
(……なんだこいつら)
3人の美女が俺に向かって自分の写っている雑誌を見てほしいとせがむ、まるで夢の様な光景。少なくとも、前の俺なら絶対にあり得なかった光景だ。
目の前で起こった光景に一瞬戸惑いを見せるも、すぐに答えを導き出すことができた。
(ああ……顔か)
今の俺は超絶美形のイケメンなのだ。そんなイケメンを女が放っておくわけがない。
なので、学生の10分休みと言う貴重な時間を使い、俺に猛アプローチをしているわけだ。
「…………」
複雑な心境だ。通常、男子高校生がこんな目に合えば、表面上は平然としていても、心の中では狂喜乱舞。死ぬほど喜んでいたに違いない。
しかし、今目の前にいる女は、全員が俺ではなく、誰のものかわからないイケメン顔目当てなのだ。そう思って女達を見てみると、どうしようもないほどの劣等感が俺の中でわき上がってくる。
「…………すまない。今は気が進まないんだ……後でにしてくれ」
3人とも驚愕の目をしていたが、いの一番に自分の思いを言葉にしたのは黒髪の女だった。
「なっ……でも「後にしてくれと言ったはずだ」……っ! 何よ!! 剣斗の癖に!」
黒髪の女は俺の一言にキレたのか、暴言をぶつけた後、外2人を引っ張って向こうへ行ってしまった。
(ああゆう女とは関わらないほうがいい……)
ただでさえこの現場に混乱しているのに、すぐキレる女まで居たら、面倒臭い事この上ない。それよりも、何故俺はこんな状況になっているのか、それを考える必要があるのだ。
キンコンカンコンとチャイムが鳴ると、俺は席に座り、次の授業が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます