到着

 数分前……



「はぁ……はぁ……」


 私は爆風の中心地に行くため、体を揺らして走っていた。


 周りは急に起きた爆風による被害で大騒ぎ。特に今いる住宅街は人口が多い分大混乱だ。


 ここでスキルを使って空を飛んでしまっては、私は一気に注目を集めてしまう。そうなってしまえば警察に引き止められ、さらに遅れてしまう可能性がある。それだけは避けなくてはならない。


 早く行きたいのは山々なのだが、今は走っていくしかできない。いつもであればできるのに、大事な時だけできないと言うのは、なんともむず痒いものである。


(でも……このままじゃ……)


 間に合わない。そう思われたそのとき。


「ワン!!」


 鳴き声が聞こえる。大阪で過ごした何週間と言う時間に、何度も何度も聞いた鳴き声だ。


 目の前に現れた小さくて黒い犬。チワワぐらいの大きさにもかかわらず、体毛が真っ黒な犬など私は1匹しか知らない。


「ブラック……」


 ブラック。彼と共にいなくなった彼の犬だ。かなりの体力を持っているブラックだが、ひどく息切れている。それだけ急いだということなのか。


「ワン!!!!」


「何……!」


 ブラックは私を見つけ、私に向かって吠えると、踵を返してブラックが駆けてきた方向へ戻っていく。


 一見、よくある犬の意味のわからない動きにも見えるが、私には、「ついてこい」と言われているように感じた。









 ――――









「見つけた……!!」


 見つけた。やっと見つけた。待ち望んだ彼の姿。そこには、家にいた頃の健康的な体はなく、中腰になって、血や火傷の跡がついた彼がそこにはあった。


 そしてそんな彼に、あの牛がとどめをさそうと言わんばかりに、拳をぶつけようとしている。


「させない!!」


 瞬間、私はスキルを発動。オーラナックルで牛を遠距離から吹っ飛ばすことに成功した。


 さすがの牛も、不意をつかれた攻撃には対応する事ができなかったようで、周りの砕けたコンクリートの上をゴムボールのように転がっていく。


 しかし、そんな事、今の私は気にしていられない。1秒でも早く彼のもとにたどり着くため、ダッシュで彼の元へと向かっていく。


 ダッシュで走った事もあるのか、すぐに彼の元へとたどり着いた。


「やっと……見つけた………」


 やっと見つけた彼の姿。何十分も走り回って、やっと見つけた彼の姿は、先にも言った通り見るも無残な姿。周りに転がる動物の死体からも、ここでどんなことがあったのかは容易に想像できた。


「早く……早く逃げましょう!! 牛が離れている間に!」


「……あ? お前……」


 彼もやっと私の存在に気がついたようで、その血まみれの顔を動かし、血走った目で私を見た。


「そうか……来たのか……」


「来ましたよ! それに、任務に連れて行くって言う約束まで破って!! まだ許してないんですからね!」


「これは任務じゃない……だから……ゲホッ……約束は破ってない……」


「こんな時に屁理屈言わないでください!ほら、牛が倒れている間に……「グルゥオ!!!!」……くっ、もう……」


 私と彼が話している間に、牛はすぐに体制を立て直してきた。やはり私のオーラではダメージを与えるには至らない。


 今のうちに逃げる算段だったが、こうなってしまえば仕方ない。


「あなたは早く逃げてください。ここは私が戦います」


 前は相手にならなかったが、牛も彼との戦いでダメージを受けているはずだ。それならば、前よりかは時間を稼げるはず。彼のスキルを使えば、家まで逃げるには充分の時間だろう。


(前のように接近してしまえば、牛のパワーに押されてしまう……ここは遠距離中心で……)


「……まて」


「……はい?」




「……何邪魔してる」









 ――――









 気がつけば、目の前に袖女がいた。


 どうやら半分ほど気を失っていたらしく、本当に目の前まで来ないと認識できなかったらしい。ここまで体にガタが来たのは初めてだ。


「……邪魔はしていません。助けてるんです」


「だったら余計なお世話だ。後ろに下がって見てろ」


「見栄を張らないでください。体がほとんど反応してないでしょ」


 確かに袖女の言う様に、俺の体は良い状態とは言えない。しかし、だからと言って逃げていい理由にはならないのだ。


 相手が1人ならば、こちらも1人で。


 女にはわからない考え。男としてのプライドと言う物がある。


「良いからから逃げて「どけ」……ちょっ!!」


 俺は袖女の言葉を無視し、既に限界の体に鞭を打ち、ずんずんと牛に向かって進んでいく。その足取りは軽いものではないが、それでも一歩ずつ、しっかりと歩んでいた。自分で言うのもなんだが、少し雰囲気が変わった気がする。


「グルゥ……」


 牛も、俺の雰囲気の変わり様に気がついたのか、すぐに俺に襲いかからず、じっと俺に対して身構えていた。


「悪いな……少し邪魔が入った」


 袖女が介入してきた事により、牛は俺が関連していないダメージを受ける事になった。牛にとっては大したダメージになっていないかもしれないが、そんな事は関係ない。


「さぁ……」








「続きをしようか」


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