リベンジマッチ その3

 牛の拳が炸裂する少し前……




「はぁ……はぁ……」


 ライトで光り輝く大通り、薄暗く生ごみが散らかった裏路地、家が立ち並ぶ住宅街。私は様々な場所を闇雲に探し回っていた。


 情報があれば、もっと効率よく探せるのだろうが、肝心の情報が何もない。パソコンも前と違ってロックがかかっており、見る事は不可能だった。


 もはや近くを闇雲に探すしかない。見つからないと思われるかもしれないが、だからと言って、分かりましたと家で待ってはいられなかった。これが1番の道なのだ。


 こんな事なら、どこへ行くのか聞いておけばよかった。そんな思いも過去の話。過去には戻れない。


「せめて何か……目印のようなものは……」


 少しでいい。たったちょっぴりでいいから。



 どうか希望を…………



 その時。



 力強い爆風が、大阪中を覆った。



「……っ!」



 神奈川で体幹を鍛えた私ですら、思わず吹き飛ばされそうになるほどの爆風。所々の建物の倒壊が起こり、窓ガラスが次々と割れる音が聞こえる。


 明らかに天然の風ではない。天気予報では台風等は接近していないと言っていたし、警報なども出ていない。


 間違いなく人口の風。そしてこの風を作り出せる者はごく少数しかしない。


「この風の中心に……」


 彼がいる。そんな気がする。



 私の足は、自然と風が吹いた方向に向かっていた。









 ――――









 牛の爆風に続くように、俺の拳の拳圧によって、再び爆風が巻き起こる。それは牛の爆風と遜色なく、俺の拳が牛の拳に引けを取らないと言う証明。一撃貰えば、確実に生命は死亡するであろうその拳は……


「ゴルルル…………」


「……届かない、か」


 残念な事に、牛の腹に穴を開けるまでには至らなかった。


 その要因となるのは、やはり牛の強靭な肉体。必要以上に付いた筋肉は、俺の拳を受け止めれるようになっていた。


「グルゥ!!」


(まずい!!)


 拳を放った後の大きな隙を見逃さず、牛は振りかぶる事なく、コンパクトに拳を振るう。狙いは俺の腹、速度重視の牛にしては弱い拳だ。


 しかし、牛にとっては弱い一撃でも、俺にとっては必殺級。それが挙動によるヒントも与えられず、凄まじい速度で向かってくるのだ。


 ここまでの威力の拳を放ってしまった事により、放ってすぐには防御に体を回せない。俺はとっさに闘力操作を腹に使い、少しでもダメージ軽減を図る。




 しかし、牛の拳が直撃する事に変わりはなく……




 その太い拳が、俺の体を大きく揺らした。









 ――――









「クルルルル……」


 主人と牛が戦っている最中、ブラックは後ろで戦いをじっと見つめていた。


 主人は何故戦うのだろう。今考えてみれば、主人はいつも戦いを求めているような発言をしていた気がする。


 何故主人は戦うのだろう。戦う事は痛いし怖い。生むのは後ろ向きな思いだけで、良い事など何もない。これはどんな人間も同じなはずだ。



 なのに…………



「グルゥアアアアアア!!!!」


「ぜああああああ!!!!」



 主人は今まさに、牛に対して暴力を振るっている。もう既に十二支獣達との戦いは終了したと言うのに、もう逃げればいいのに、今もなお戦っている。


「……キャウ」


 何故なのか。それは未だにわからない。


 だが、わからなくても、意味のない行動だと見えても、それでも目の前で戦う男は自分の主人なのだ。



 ならば行動しよう。少しでも主人にとって意味ある行動を。



 この戦いには自分はついていけない。自分のレベルを遥かに超越している。ならば、今自分がとる行動は1つしかない。




 ブラックは夜の道路へ、勢いよく駆け出した。

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