リベンジマッチ

「オオオオオオオオオオ!!!」


「ドラァァァ!!!!」


 拳と拳の激突。意地のぶつかり合い。高速で行われる戦闘は、自分の体力が限界に近いことも忘れさせた。


 牛の太い拳による攻撃。一撃でも受けてしまえば、骨も内臓もぐちゃぐちゃになるだろう。


 頭が働かなくても見える未来。そんな未来に俺が対応できないわけがない。


 俺は体を引いて、その拳をしっかりと回避。それどころか牛の拳に合わせて、右手でカウンターパンチを決めた。


「ゴルルル………」


「ちっ………」


 しかし、その程度でダメージを受けるほど、牛はヤワではない。攻撃を受けても、まるで何事もなかったかのように無反応。


(やっぱりもっと強くか………)


 この程度では牛にダメージは無い。だからといって連打で少しずつダメージを与えていく戦い方では、時間の無駄。


 もっと強烈な、究極の一撃を牛に叩き込まねば。



 しかし………



「ブアア!!」


「ぐっ………」


 あの動き辛そうな体格でありながら、俺の攻撃を見てから避けられるほどのスピード。普通の肉弾戦なら、100%勝てないだろう。


 しかし、これはただの肉弾戦ではない。スキルを駆使した肉弾戦だ。牛のスキルが制限付き無敵時間に対し、俺は反射。スキルなら俺に分がある。


 だが、"スキル"に分があるだけだ。スキル単体では俺に分があるものの、結局、総合的な面で言えば、俺は大きく劣る。今だって反射を使っているのに、スキルを使っていない牛とどっこいどっこい。


 これでは駄目だ。勝てる未来が想像できない。勝てる未来とは自然と浮かぶものではなく、自分で作っていくものなのだ。どこかでアクションを起こし、無理矢理にでも流れを変えなくては。


 俺は流れを変えるため、足の裏に反射を使い、地面を強くグリップし、牛の背後に回転しながら移動する。


 背中と言うのは生き物にとって、弱点と言える部位だ。腹と違って肉が少なく、体を支えるための重要な骨が多い。それは人間ではなくても、骨がある生物なら当たり前にあるものだ。


「ここにダメージを与えれば………」


 こちらが一気に有利になる。そのはずなのだが………



 それは、ダメージが与えられればの場合だ。



「………っ!!」



 俺がダメージを与えようと、右拳を振るった瞬間、牛の姿が半透明になり、やがて消える。


 これは間違いない、スキルによる無敵時間だ。牛は自分のスキルを使って回避したのだ。


 こうなってしまえば、俺に残された道はただ待つのみ。牛の無敵時間が切れるのをただ待つだけだ。


 しかし、この無敵時間にももちろん弱点がある。無敵時間の時は、相手も手出しできないのだ。相手が攻撃できるのは、姿をあらわにした時のみ。俺が狙うならそこだ。


 そして、思考回路が単純な動物が姿を現すのは、こちらの目線がない死角。そんな場所は1つしかない。


「そこだ」


 背中だ。背中しかない。俺は後ろから殺気を感じると同時に、左手を使って裏拳を叩き込む。


 振り向いてからでは間に合わない。なので、拳を後ろに振るだけで攻撃を加えることができる裏拳が効果的。


(……よし!)


 裏拳した腕に感じる確かな手ごたえ。そこには確実に攻撃が当たったと言う感触と。


「グルゥ!」


 与えたダメージにより、牛の鳴き声が響いた。


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