謀略

 白衣の男から放たれた一言。それはネーリエンの脳を強く刺激し、熱くなりそうな脳を必死に冷却しながらも、脳をフル回転させ、なぜそうなったのかと言う理由を探し出す。


 少しした後、ネーリエンの脳は1つの結論を出していた。


「……ベドネ、貴様……何かしたな?」


 ネーリエンはベドネの方を振り向き、そう言葉を発する。ネーリエンの脳は、ベドネが何かをしたと言う結論を付けたようだ。


「何の事だい?」


「しらばっくれるな。タウラスが近づくのを許しているのは俺とお前だけだ。それ以外の人間が近づけば暴れだしてしまう。タウラスの脱走に今の今まで誰も気付かなかったんだ。誰かがタウラスに命令し、意図的に逃したとしか思えない。そして、俺以外に隠密にタウラスを逃すことができるのは……」


「僕しかいない……って事かい?」


 ネーリエンは何も話さない。その代わりに無言でベドネをじっと見つめ、肯定を伝える。そのサインはベドネにも伝わったようで、やれやれと観念したように首を振っていた。


「やっぱり君にはかなわないね……そうだよ。タウラスは僕が逃した」


「……何故こんなことをした」


「……タウラスが久々の敵でうずうずしていたからね。あのまま檻の中って言うのも……かわいそうな気がしてさ」


「…………」


 タウラスの事を思っての行動。それは医者としてはすばらしい理由であり、動物への愛を感じさせる行動理念だった。



「……おい」



 しかしそれは。



「……そんないいわけで逃げられると思っているのか?」



 本当にそう思っていればの場合だ。



「……あ、バレた?」


「当たり前だ。もう何年一緒にいると思ってる? お前の行動理念ぐらい理解している……お前がそんなことを思う人間じゃない事もな」


「ま、本当の理由は面白いからだね。つまんないでしょ?この勝負だけで終わりっていうのは。見てみたいじゃないか。もう一度2人の勝負をね」


「……見る前に侵入者を排除しろ。そうしないと見る事は許さん」


「ちぇー」









 ――――









「ゴルルルルルルル……」


「牛……」


 目の前に現れた巨体。その正体は牛。大阪派閥本部に現れた、あの牛だ。


 俺が唯一敗北した十二支獣。俺のたったひとつの戦闘と言う長所に泥を塗った、あの牛だ。俺の犯罪者生活の中で、あの幼なじみに次いでリベンジ必須な相手。


 そんな敵を目の前にして、俺がとる行動など1つしかなかった。


「だああああああああああ!!!!」


「ゴルルルアアアアアア!!!!」


 拳と拳が、激突する。


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