心情
兎と伸太の間に入ったブラックは、自分自身でも驚いていた。
自分自身でも制御できない体の動き。主人の声に反応する体。まごう事無き条件反射。
ブラックの体は、まるで主人を守るかのように、伸太の前へ現れたのである。
ブラックは思った。怖さが消えたと言うわけではない。あの匂いのする動物は恐ろしいし、こんなところになんて居たくない。
……だが。
主人に行けと言われたのだ。ならば行くしかないだろう。
我が誇り高き父に誓って。
――――
十二支獣達と戦う2日前……
「ブラック……ちょっといいか?」
「ワン?」
夜の散歩道を歩いている途中、俺は一旦立ち止まり、ブラックへと話しかける。ブラックもこちらに振り向き、「どうしたの?」と言いたげに首をかしげる。
「……ふふっ、お前はいつも変わらないな……1つ、お願いしてもいいか」
「ワン!」
ブラックは俺の言葉に元気よく答える。主人の命令ならなんでもと言うことだろうか。
「心強いな。それじゃあ1つ……俺が合図したら、お前も戦闘に参加してくれ」
「……ウウ?」
戦闘に参加する。俺がその言葉を発すると、ブラックが少し悲しそうな鳴き声を上げ、下を向く。
「おいおい……そんなに嫌そうにするなよ。俺はお前に頼ってるんだ」
「ウウ……ワン……」
「これから始まる戦い……間違いなく、俺1人じゃあかなわない事がある。そういう時は……"助けて"欲しいんだ」
「クゥ……」
「そんな重く捉えないでいい。俺だってできるだけ1人で戦いたいし、駄目だったら来なくてもいいから……」
「だからこれは約束っ! な?」
そして現在。
「よくやったぞ!!ブラック!」
俺の前には、しっかりと小さく、とても大きく見える黒い犬がいた。
――――
兎の目の前に現れたブラック。その瞳からは恐怖と使命が入り混じり、混沌に染まっている。しかし、その体だけは、俺の言葉に反応し、兎を止めるべく攻撃を開始した。
「ウオオオオオオオオオ!!!!」
もはや犬ではなく、まるで大狼のような咆哮を上げ、ブラックは兎に向かって駆けていく。
そのしっぽは形状が変化し、鋭く、鞭の様な剣になり、兎に向かって切りかかる。
しかし、その程度で兎が殺されるわけでもなく、腕で体をクロスして守り、しっかりと対処されてしまう。
……だが、時間は稼げた。
既に俺は兎の体を通り過ぎ、バランスを崩した龍の目の前までついに接近。
「あばよ」
そして、反射を宿した拳で、龍の頭を破壊した。
「キュ……!?」
兎は仲間の死に驚愕の声を上げ、その瞳に絶望を宿す。
1対1になってしまえば、十二支獣だろうと、兎ぐらいなら俺にとっては関係ない。今ここに、俺の勝利は確定した。
兎がその瞳に絶望を宿したからといって、俺の体が止まるわけではない。体を強くグラインドさせ、すぐそこの兎の体に向かって、拳を叩きつける。
兎に向かった拳は、見事に兎の体に突き刺さり………
地面から見覚えのある巨体が現れた。
――――
「ちっ……こんなときに……兵士達に対処させろ! 難しいならタウラスを出してもかまわん!」
「い、いや……もうタウラスを出そうとしたんですが……」
白衣の男はもじもじと、ネーリエンに言い辛そうに口をモゴモゴとさせる。
「なんだ! 言いたいことがあるなら早く言え!!」
怒りっぽいネーリエンは、そんな白衣の男の態度に嫌気がさしたのか、荒っぽい口調で次の発言を催促させる。
「はっ、はいぃ!そ、それが……」
白衣の男は遂に口を開き、言葉を紡いだ。
「タ、タウラスが……」
「檻からいなくなりましたぁ!!!」
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