策実行
「ここだ……!」
ここ。ここしかない。この戦いのために用意した1つの策。使うならこのタイミングしかない。
距離も大丈夫。準備も出来た。体も動く。覚悟なんて遠の昔にできている。
虎に向かって策を実行する。そう思った瞬間。
自分の脳の思考回路より早く、自分の体が反応した。
「こいっ!!!!」
虎の手の甲に拳を置いていた自分の右手をバッと広げ、その手のひらに強く念じる。
(来たっ……!!)
俺の右の手のひらにかかる白いモヤ。それは俺の手のひらに吸い付くと、1つに固まり、黒い剣の形になる。
そこに現れたのは黒い剣。何を隠そう、神奈川の任務の報酬にもらったあの剣だ。
そのまま剣を虎の方に向ける。しかし、この時の剣の向け方が重要。普通に剣道のような向け方では駄目。もっと相手に向かって、"差し込む"様な向け方をしなければならない。
なので……
「この向け方が……いい」
虎に向かって、剣をまっすぐ向ける。剣先を向けるこの持ち方。これがいい。これが策を実行する事おいて重要なのだ。
これを策に適していない向け方にしてしまうと、策の実行にタイムラグが生じてしまう。こうなると、虎に回避される可能性が上がってしまうのだ。
それはいけない。少しでも成功率を上げるのだ。
そして今、この策において最高の向け方をする事に成功した。
「むぅうん!!」
そして、剣先を向けた剣を……
虎の口に向かって押し込んだ。
「グルアアァァァァァァァァァ!!!!」
しかし、口に向かってそんな物を突きつけられて、対抗しない生き物はいない。もちろんの事、口を開き剣を光輝く牙で折ろうとしてくる。
しかし、この剣はただの剣ではない。究極の金属、ウルトロンで作られた世界最硬の剣だ。
そんな剣が、そこらの虎の噛みつき程度で折れるわけがない。
「ガウッ……!?」
俺の予想通り、剣は見事に虎の牙の間に挟まり、ガキリと甲高い音を上げる。当然だが、虎は俺の剣の事を知らないので、自分の牙でも噛み切れない事に驚愕しているようだった。
(まだ足りない……!!)
深さが、深さが足りない。虎の口の中に入っているのは剣の先のみ。もっと奥に突っ込まなければ。
「こんのおおおおおお!!!!」
俺はさらに奥に剣を入れる為、意を決して腕ごと剣を喉奥まで突っ込んだ。
さて、大きな獣の口の奥まで腕を突っ込むとどうなるんだろうか?
答えは簡単。
"ぐちゃぐちゃになる"だ。
「……ッ!…ッ!!」
言葉にならない痛み。瞳からは涙があふれ、なぜかダメージを受けていない口からも血が噴出する。感じた人以外では想像できないであろう腕を侵食されているかのような痛みだ。
(だけど……!)
だが、その代わりに得た物。それはあまりにも大きく、策を実行する条件は全て整った。
さて、俺の頭の中をもし読んでいる人がいるのなら、1つ問題を出そう。
俺の黒剣には、世界で一番の硬度を誇る他に、もう一つの特徴があります。さてなんでしょう?10秒以内に答えてね!
……はい。終わり。
答えは反射を宿せる事でした。
そう、反射を宿せる。この剣は俺の反射を唯一宿す事が出来る特別製の剣なのだ。
そしてそんな反射を宿せる剣が虎の喉奥にまで刺さっているのだ。そうなれば、起こる現象はたった1つ。
俺はすぐさま反射を右腕に発動。それはもちろん剣にまで流れ……
「死ね」
虎の頭は内側からはじけ飛んだ。
――――
「ウウ……」
一方その頃、瓦礫の隙間に隠れているブラックは萎縮していた。
あの臭いが染み付いた獣に……
そして同時に、そんな恐怖の象徴とも言える獣に対して、一進一退の攻防を見せる我が主人に畏怖の感情を抱いていた。
「ウウ……」
ブラックも戦えないわけではない。むしろあの研究所の中では、かなり戦えていた方だ。
しかし、戦えるのと恐怖は別問題。いくら戦えるとしても、恐怖で足がすくんでいては戦えるものも戦えはしない。
ヤクザの時は、虎が相当弱っていたため、トドメを刺すことができたが……見てはいないが、今もおそらくは3体ともピンピンしている事だろう。
「……キャン」
進めない。最初の1歩が。
前に進んでくれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます