個
「すごい……すごいじゃないか!!」
ベドネは部屋で興奮を隠せていない表情をしながら、モニターに見入っていた。
そのモニターに映し出されていたのは、十二支獣3体と一進一退の戦いを繰り広げる青年の姿。
「まだまだ下位とは言え、十二支獣3体を相手取ってこんなにも長い間拮抗するなんて! 人間のできる所業とは思えないよ!!」
「……フン。まぁ、少しはやるようだな」
モニターに写し出されている青年の姿は、所々が生傷だらけではあるものの、致命傷はまだ受けておらず、龍のブレスを回避しながら、血の出た部分を押さえ込んで止血する姿が写っている。
「……しかし、このままではあの男はやられる」
「だろうね。それは彼自身が1番わかっている事さ」
確かに、モニターの先にいる彼は致命傷は受けていない。しかし、十二支獣達にダメージを与えている様子はなく、ひっかき傷や火傷が所々に増えている。
塵も積もれば山となる。そんなダメージを何十回も受けていれば、いつかは致命傷になり得る。
「十二支獣達には、回復スキルを持つ者達もいる……今回の虎がそうだ。虎はダメージを受けない限り、体力的に疲れる事は絶対にない」
「そもそも彼は気づいていないように見えるね……」
「だろうな……俺も長い事この仕事に携わってきたが、未だに信じられない」
どうやらネーリエンは十二支獣達が勝つと確信しているらしく、まだまだ瞳は揺らいでいなかった。
しかし、そんなネーリエンに向かって、ベドネは発言する。
「しかし……人間には、世にも不思議な力がある」
「何を言っているベドネ。オカルトは存在しないぞ?」
「オカルトは存在しないよ………だが、人間には時に、100%を超える力を出せる瞬間がある」
「火事場の馬鹿力……ってやつだよ」
――――
「いっ……ぐっ、チィッ……!!」
俺は、刻一刻と、少しずつ少しずつ追い詰められていた。
怒涛に降り注ぐ攻撃。ちょうど俺の攻撃が届かない距離。いつどのタイミングで飛んでくるかわからない光の矢。この三重苦が俺を苦しめていた。
これを見ている人がいるなら、兎や虎が攻撃を私に近づいたタイミングで攻撃すればいいと思っている人もいるかもしれないが、虎と兎も、長い時間をかけて学習したらしく、攻撃した後にすぐ離れる、少し近づいて離れるを繰り返し、ヒット&アウェイを実現させていた。
これでは俺にとってはノーチャンス。相手のミスを狙ってその隙をつくと言うのは不可能に近くなっていた。
「こうなったら……!!」
体力も残り少ない。自分から起点を作りに行くしかないのだ。
俺は覚悟を決め、3体に向かって一直線に駆けていく。前にも言ったが、ダメージは覚悟の上だ。
しかし、自分に向かってまっすぐに突っ込んでくる俺に対して、何もしないなんて理由はない。当然、俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。
仕掛けたのは龍のブレス。その炎は真っ赤に燃え上がり、熱いなんてものではなさそうだ。
「……っ」
俺は腕をクロスに構え、重要な部位に炎ができるだけ行き渡らないようにし、炎の中に突っ込んでいく。
「……!!!! ……!!」
もはや声も出ない。肌を焼かれる痛みに精神が砕かれそうだ。
だが、俺が突っ込んだのは精神を砕かれるためではない。この勝負に勝つために突っ込んだのだ。
なので当然……
「耐えられるッ!」
当然だ。耐えないと意味がない。そしてもちろん、炎を耐えて突き抜けた先には、お目当ての十二支獣、龍の姿。
無論、炎を突き抜けてきたため、ガードしていた腕は焼けただれ、筋肉繊維が露出している。
だが、筋肉繊維が露出したからといって、使えない理由にはならない。その程度の痛みで止まっていられるほど、今の俺は安全ではないのだ。
「ダラァァァ!!!!」
俺は大声を発しながら、皮膚がポロポロと取れていく右腕をぎゅっと握りしめ、拳を作り上げる。
とは言っても、相手は複数。仲間に飛んでくる攻撃をフォローしない理由がない。
「ガルァァ!!!!」
当然のことく、虎が俺を止めようと、白く輝く爪で横から攻撃しようとしてくる。
「だああぁ!!!」
それを想定していない俺ではない。俺は足を軸に、龍から虎の方へ強くグリップ。龍から虎へと方向転換する事に成功した。
俺はそのまま、俺の方へ伸ばされていた手に向かってその拳を振り下ろす。振り下ろされた拳は見事、虎の手に直撃。そのまま地面に叩きつけられ、俺の拳と硬いコンクリートで虎の手はサンドイッチにされた。
「ギャオオオオ!!!?」
拳から、ボキボキと骨が折れる音が聞こえる。虎は相当に痛かったのか、口から悲痛な咆哮があふれた。
「ヘヘッ……」
大丈夫。大丈夫だ。心配しなくていい。
いつだって正義は物量だ。自分たちが正しいと思ってしまうあまり、いじめまがいの事に手を出してしまう。
(そうだ……そうだ)
そうじゃないか。何度も体験したじゃないか。多対一なんて何度も何度も経験した。あの地獄の。東一で培った技術を生かす時だ。
黒く染まる。
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