スペック

「んっ……!」


 白い兎の姿が消える。まず間違いなく高速移動したのだろうが、高速移動する敵とは何回も戦ってきた。もはや速いだけでは俺に攻撃を与える事は不可能。


 俺は感覚的に兎が攻撃する場所を感じ取り、そこから瞬時に離脱する。


 離脱した後に確認すると、そこには兎と青白く浮かぶ物体が存在していた。


(……なるほどな)


 これではっきりした。あの青白い物体は、ほぼ間違いなく攻撃用の何かだ。デュアルとは厄介なものである。高速移動にも青白い物体にも気を払わなければならない。普通に相手するだけでも相当面倒臭い相手だ。


 しかし、俺が相手しているのは兎だけでは無い。虎がすぐに離脱した俺に近づき、牙を輝かせ、噛み付き攻撃を仕掛けてくる。


 俺が地面に着地してすぐに攻撃を仕掛けてきたため、普通に回避することは不可能。


 だが、そんな人間の不可能を可能にするのが、スキルだ。


 俺は足に反射を使い、地面についた瞬間に地面と反発し、空へと垂直に飛ぶ。3メートルほど地上から空へ飛び、回避に成功した。


 しかし、まだ十二支獣達の攻撃は終わらない。後ろから強い熱気を感じる。


 龍のブレス攻撃だ。振り向かなくてもわかる。この強い熱気。炎以外ありえない。


(どうにか……!!)


 俺は右腕に反射を宿し、空気反射を発動。空気を押す要領で左側に飛び、ブレス攻撃をなんとか回避した。


「あっち……」


 ただ、空中だと言うことも相まって、無傷と言うわけにはいかず、左腕の肘の部分が焼け、黒く焦げている。


 さっきから攻撃を加えようとはしているのだが、相手の物量が凄すぎて、どうしても防戦一方になってしまう。多人数の強さをこの獣たちはいかんなく発揮していると言うわけだ。


 それを打開するために策を用意してきたのだが……


(こんな量の頻度では……!!)


 しかし、俺の策は近くにいないと実行できない。こんな大量の攻撃の前では、息つく暇もない。近づく事なんて無理だ。近づいて攻撃してくる虎はともかく、遠距離から一方的に攻撃してくる龍や、高速で移動しながら、一定の距離を保って攻撃してくる兎には仕掛ける事は不可能。


(でも……それでも……!!)


 無理だとばかり言っているだけでは意味がない。無理矢理にでもアクションを起こし、流れを変える必要があるのだ。


 そもそも多対一の場面に立たされている以上、俺自身もタダではすまない事はわかっている。ダメージを受けてでも、行動をする場面がここなだけだ。


(行くぞ……!)


 俺は足を地面に向かって踏み込み、獣達に向かって……



 俺の周りに、空に浮かぶ無数の光の矢が現れた。



「……は?」


 瞬間、俺は反射的に反射を使わずジャンプし、空中で回転する。


 そうする事で、体の大きさを最小限にし、少しでも光の矢によるダメージを軽減する作戦だ。


 結果的に、俺は致命傷を受けることなく、着地して体制を立て直すことに成功したわけだが……


「ハァ…ハァ……ハァ……」


 やはり、光の矢をすべて回避する事は難しく、背中に2本、左足に1本の計3本の矢を受けてしまった。光の矢は俺の体に刺さっても消える事はなく、俺の体に突き刺さったままだ。


 そのかわりと言ってはなんだが、まだまだ左足は動く。光の矢は量が多い分、1本1本は小さく、ダメージはさほど大きくはない。


「これなら……ハァ……まだ……」


 しかし、体力の限界が近づいてきたらしく、息遣いが激しくなってきた。肉体の基本スペックの違い。それが如実に現れ、相手との体力の差が明らかになってきた。


(それにしても……あの光の矢は……!)


 間違いない。100%間違いなくスキルだ。しかし、目の前にいる十二支獣全てのスキルは判明している。兎は高速移動にダメージを与える青白い物体。虎は光り輝く牙や爪。龍は炎のブレス。空いている枠は1つも存在していない。


 となると1体隠れている可能性が高い。そうだとすればかなり厄介だ。こちらからは手出しできず、あちら側からは一方的に攻撃できる。


 しかし、そうなると、とある1つの疑問が浮かぶ。


 その疑問の内容は、何故最初から光の矢を使わなかったのかと言う問題だ。あんなのを連射しながら戦う事になれば、今頃、俺の立場はさらに危うくなっていただろう。


 この世に弱点のないものなどない。それはハカセから教わったこの世の真理であり、一筋の希望を示す言葉だ。


 と言う事は、何かしらの制限がある事は明白。そしてあまり適当に打てない制限だということがわかっている。


(……まさか、弾数制限か?)


 しかし、ずっと考えてはいられない。そう考えている間にも、炎のブレスと兎による攻撃が絶え間なく俺を殺そうとしてくる。


 その中に光の矢の姿は無い。


(やはり……)


 俺は攻撃を回避し続けながら考察する。


 光の矢はいざと言う時にしか使えないのだ。おそらくは防御用。かなりきつめの条件があるのだ。とは言っても、こちらがきつい事には変わりはない。






「チィ……!!」

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