1対3

「ぐうぅ…………」


 十二支獣3体との戦いが始まった俺は、当然のことながら苦戦を強いられていた。


 兎の素早い動きに、虎の一撃必殺のパワー。


 そして……


「熱っ……」


 龍の口から放たれる火のブレス。完璧な連携から生まれるフォーメーションは遠近完璧な形を宿していた。


(このままじゃらちがあかない……!!)


 これではジリ貧だ。時間が経てば、生物的に体力が少ない人間である俺の方が不利。どこかでアクションを起こさねばならない。


「グルアア!!!!」


 そんな事を考えていると、虎が急激に接近し、その太い爪は光輝き、俺を貫かんと迫ってくる。


(ここっ……!!)


 とにかくアクションを起こさねば。この攻撃は避けず、虎の光輝く爪の攻撃に対し、ガッツリと対抗させていただくとしよう。


 俺は反射を使い、爪の攻撃に対して拳で応戦する。


「むん!!!」


 虎の爪と、俺の拳が激突する。


 そのぶつかり合いは、ギャリギャリと拳がぶつかっているとは思えない音を立てる。


「ぐおっ……!」


「ギャウッ!!」


 その激突は、両者が弾かれると言う形で終了した。


 しかし、完全に無駄だったと言うわけではない。その証拠に俺の手の甲からは血が吹き出し、虎の爪は先端が欠けている。


「チッ……」


 俺は、血が滴り落ちる手を開閉し、まだ動く事をチェックすると、また相手の方へ向き直る。


(手はまだ動く……何も問題ない。今考えるべきは、奴らの手の内だ)


 俺は一気に考えを張り巡らせる。


(あの虎の爪の輝き……月の光が反射しただけでは説明できないほど、強く光り輝いていた。まず間違いなくスキルだろう……おそらくは威力が上がるスキルか)


 だとすれば……


(今が攻め時ッ……!?)


 その瞬間、俺の腰の肉が、何者かによってえぐり取られる。


「しまった……!?」


 虎の攻撃手段が1つ失われた今、確かに今が攻め時だっただろう。


 しかし、それは虎と戦っていた時のみの場合だ。


 今戦っているのは虎だけではない。相手は複数。1体だけに意識を集中していては、残りの2体から攻撃を食らう。


 俺は必死にえぐり取られた部分を手で強く押さえ込み、止血を図る。だが、止まっていてはまた狙われる。


(移動だ!!!)


 俺は腰から溢れ出る血を止血しながら、右へ左へと反射の勢いで飛び回る。


 しかし、それをただ突っ立って見ているだけで終わる十二支獣では無い。


(何かが……!?)


 高速で動く俺に、小さな白い物体がぴったりついてくる。


(兎……!!!)


 白い物体の正体は兎。兎は俺と同じレベルの速度を保ちながら、ぴったりと俺についてくる。


(身体能力の強化じゃ説明にならないほどの速度……!! あれが兎のスキルか!!!)


 高速で動くスキル。かなり厄介なスキルだが……


「鼠と一緒なら……対処は簡単だ!!」


 俺はその速度を保ったまま、体を右へそらし、その角度に向かって跳躍する。


「キュ!?」


 右にはもちろんコンクリートの壁がある。そのコンクリートの壁に直撃する前に、足でそのコンクリートの壁に着地し、足に反射を使い、次は左に跳躍する。


 その繰り返し、これによって相手の脳をパンクさせ、鼠を殺すことに成功した。


「キ、キュウ……」


(やはり……!! この戦法は兎にも有効!!)


 俺はしばらく、右へ左へ飛び跳ねた後、足を踏み込んで一気に兎に近づく。


 兎は予想通り、かなり混乱したようで、ポケーッと突っ立っている。


(この一撃で…… 1匹脱落だ!!)


 闘力を貯めた拳を……隙だらけの兎の体に!!


「ちょくげ……!?」


 瞬間、兎の首がグリンと、こちら側に向いた。


(なっ……)


 ありえない。頭の混乱はそう簡単には治らないはずだ。


 そんな考えをよそに、兎は短い手をパカっと開き、応戦しようとしてくる。


(馬鹿が……!兎が人間に腕力で負けるわけないだろう!!)


 スキルがわからなかったら、かなり警戒していたが、兎のスキルは高速移動のスキルだと判明している。そのため、普通なら警戒するその動きも、今はまるで怖くない。


 いくら都合よく脳の混乱が治り、こちらに反応できたとしても、その脳が馬鹿では意味がない。


 俺はまっすぐと、勢いよく兎に向かって……



(……?)



 しかし、何か感じる違和感。いくら兎が馬鹿だとしても、こんな動きをするだろうか。そんな事をしていて、十二支獣が務まるのだろうか。


 そんな俺の第六感。戦いの中で磨いてきたその感覚が。


「ぐっ……!!」


 俺の体に、強いブレーキをかけた。



 俺は体を捻って方向転換。一気に兎から距離を取る。



 そのまま地面に着地し、さっきまで俺がいた場所を見ると、何かがフヨフヨと浮かんでいた。


「あれは……」


 青白く浮かぶ物体。それは兎の手と連動し、兎が手を引くと、その物体はゆっくりと消えていった。


 こんな現象、たった1つしか考えられない。



「スキル……?」



 スキルによる現象。それしか考えられなかった。


 しかし、兎のスキルは高速移動のスキル。何か応用したのかとも考えたが、高速移動のスキルであの現象は起こらない。


 つまり……スキルは2つある。


(……まじ?)


 まさかのデュアル。2つのスキル持ちと戦うのは初めてだ。


 今考えれば、あんな小さな爪で俺の腰の肉をえぐれるとは考えづらい。


(あれもスキルだったのかもな……青白い物体に触れるとダメージを受けるとかそんな感じか?)


 わからない。わからないぞ。奴らの正体が、見えない。脳がパンクしてしまいそうだ。






 どうやら、脳が混乱しているのは、こちらの方らしい。

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