戦いの訳

 あれから時間が経ち、ついに夜の11時。戦いの時となった。


 袖女は既に起床し、動かない俺をじっと見つめている。


「…………」


「さっきからどうしたんですか……? さっきからそこを動かずに……」


 正直、袖女の質問なんて聞いていられない。俺は今から死地に行く。そのためには、手先の感覚を最大限に研ぎ澄まし、戦闘態勢を整える必要がある。


「……おーい」


「……うるせぇ、少し黙ってろ」


「…………」


 体の中の闘力のチェック。反射が正常に使えるかの確認。今回はブラックも連れて行かせる。ブラックも元々は大阪派閥の兵士。十二支獣と対面させる事で何かが起こるかもしれない。だが、あくまで戦うのは俺なのだ。そんなまさかの可能性に頼ってはいられない。



(俺が戦うんだ……俺が……)



「…………」






「何馬鹿なことやってるんですか?」






「……何?」


 袖女が放った一言。その一言は、俺の心を現実に戻すのに、十分な言葉だった。


「聞こえませんでしたか? 何馬鹿なことやってるんだって言ったんです」


「……あんまり調子に乗るなよ」


 返事をした俺を、袖女はまた俺をじっと見つめる。それが数秒続いた後、袖女は、はぁとため息を吐いた。


「……もういいです。何をするのかは知りませんが、がんばってくださいね」


 袖女はそう言った後、洋室の中に入っていた。


(……何だったんだ)


 まあいい、やる事はやったんだ。


「………戦いの時だ」









 ――――









「もう少しかな……」


 あの後、俺は遂に外に出て、暗い夜道を歩いていた。


「クゥーン……」


「……何だ? 怖がってるのか?ブラック」


 ブラックは、昨日の事も相まって、暗い夜道をかなり怖がっているようだ。また襲われるんじゃないかと思っているんだろう。


 ……残念ながら、それは現実になるわけだが。


「ヘッ、来やがったか……」


 急に頭上から感じる殺気。この時間帯、この場所で、俺の頭上に感じる殺気と言えば、1つしかない。


 俺は頭上から感じる殺気に対し、ブラックを瞬時に担いで後ろに向かって飛び跳ねる。事前の情報では、ここで襲いかかってくる十二支獣には、龍は微妙だが、空中で移動できるものはなかった為、これだけで回避することが可能なわけだ。


「いいねぇ、この隠さない殺気……ビリビリくる」


 地面に着地したことによる煙が晴れ、そこに現れたのは3体の動物。


 1体は虎。大きな体をしているが、ヤクザの本拠地で見た虎程のでかさはない。


 1体は兎。体毛は白く、体格もそこまで大きくはない至って普通の兎だ。


 1体は龍。龍なのだが…………


(龍は龍でも、トカゲかよ)


 そう。トカゲ。めちゃくちゃでかいトカゲだ。どちらかと言うとコモドドラゴンに似ている。なるほど、だから龍か。翼はなく、どうやら飛べないらしい。


「ク、クゥーン……」


 ブラックは妙にあの3体を怖がっている。


 …………さっきから怖がってばかりだな。


「……さて、やるか」


 俺は担いでいたブラックを地面に置き、3体に向かって殺気を飛ばした。






 ……さぁ、殺し合いのスタートだ。









 ――――









「……始まったね」


「……ああ」


 ネーリエンとベドネは、いつもの部屋でカメラから得た画面をモニターに映していた。


「うーん……」


「どうしたベドネ? 何か不満そうだな」


「フェアじゃないと思ってね。彼は戦場にいるのに、僕たちはこんなところに居ていいのかなって……」


「フッ……何を言うかと思えば、そんなバカな事を。お前らしくないぞ。もともと戦いと言うのは、いかに相手にアンフェアを押し付けるかと言うものだ。奴は戦場にいて、こっちは安全地帯。むしろこれが本当の戦いなんだよ」


「……そうかい」


 そう言うと、ベドネはそれ以上言わず、じっとモニターを見つめた。


「……フッ、とは言っても、戦いにもならないだろうがな」


「……それは早計じゃないかな。虎だってまだ十二支獣になりたてでしょ」


「早計ではないさ、確かに虎はまだまだ不十分な点がある。しかし、大阪派閥が誇る十二支獣に楯突いた時点で、奴の負けは決まっている」










「勝つのは当然…………十二支獣さ」


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