敵同士だから
同時刻、我が家では……
「全く……何やってるんだか」
私はする事もやる事もなく、ただ家のリビングでぼーっとしていた。
頭の中に浮かぶのは、何か深刻そうな顔をした彼の姿。そこには今までの自信たっぷりな風貌はなく、どこかとても張り詰めたような空気を漂わせていた。
「…………」
最近、1人ではしんみりしたような感情ばかりで、なかなかテンションが上がらない。
昔から1人では自己否定をしてしまうタイプだったが、ここまで毎回自己否定をしてしまう事は初めてだ。
……彼がいれば、そんな感情は湧かないのに。
いつの間にか彼がいることが当たり前になっていた。周りに人がいないと言うのは、こんなにも人にダメージを与えるのか。
(……早く帰ってこないかな)
まるで父の帰りを待つ子供の様に、リビングの真ん中で座り込む。
しかし、私と彼は敵同士。彼の帰りを願ってはいけない。
敵同士だから。
「……味方だったらいいのにな」
私は言葉をつぶやいた瞬間、ハッと自分が何を言ったかに気づき、ブンブンと頭を振る。駄目だ。自分はチェス隊。神奈川の中でも最高峰の地位に位置する存在。その分責任感を持たなくてはならない。そんな邪な事を考えてはいけないのだ。
考えては、いけないのに――――
「……はぁ」
やることはない。考えているだけの自分が、どうしようもなく無力に感じた。
……ふと、あることに気づく。
「そういえば……ブラックもいませんね……」
ふと気づいたブラックの喪失。ブラックが彼と一緒にいなくなるなんて任務中の時ぐらい……
「……任務、中?」
まさか、まさかそんな。私の中に、ある1つの大きな可能性が浮かんでくる。それはむくむくと私の心の中で大きく大きく膨らみ、やがて私の頭の中は、そのこと一色となった。
そして気がつけば。
私は外へと飛び出した。
――――
「馬鹿な!!? 馬鹿な馬鹿な!!!!」
ネーリエンはいつもの部屋で取り乱し、半狂乱状態になっていた。
理由はもちろん、目の前のモニターに映る、頭がなくなった虎の姿にあった。
「3体! 3体同時だぞ!? 1体ずつ連戦してるわけじゃないんだぞ!! ……何故!何故なんだ!?」
乱れているネーリエンとは対照的に、ベドネは椅子に座ったまま、冷静な表情でモニターを見ていた。
「……おいベドネ!! お前は驚かないのか!? 3対1で虎が殺されたんだぞ!!!」
「驚かないさ。あの子たちも戦場にいる以上、死ぬ事は当然。あの子達の力を彼が上回った。それだけの話さ」
「それはありえん!! あの3体は集まれば複数人のハイパーを相手取ることができるんだぞ! それを上回ったなんてありえない!!」
「ありえるのさ。始まる前に言っただろう?」
「火事場の馬鹿力ってやつさ」
――――
「ヘヘッ……ざまぁねぇな」
俺の目の前には、頭だけが吹き飛んだ虎の姿があった。首の部分からは血がまるで噴水のように溢れており、間違いなく絶命しているのが分かった。
絶命していると言う事実は、普通は悲しむべき事なのだが、今この状況で俺にとっては希望の光。3対1が2対1になったのだ。その分これからの戦闘も楽になる。
「ギャルオオオオ!!!!」
しかし、仲間が殺されて黙っている生き物など存在しない。横にいた龍が激怒したように咆哮をあげ、こちらに向かって口を開ける。
(ブレス攻撃か!!)
俺のその予想は当たり、龍の口からブレスが発射される。
しかし、口から発射されるものがおかしい。今までは炎だったが、今回、口から発射されたのは水。本当にただの水だ。
だが、その水の発射速度が違う。とてつもなく発射速度が速い。龍が口から水を発射したかと思えば、すぐに自分の目の前まで来ていた。着弾スピードが今までとは段違い。
(だけどな……!)
俺の反射による地面の蹴り上げなら、たとえ攻撃が目の前でも、回避する事は可能だ。俺は横っ飛びして攻撃を回避。超強力水鉄砲を回避することに成功した。
(すっげ………)
しかし、この水鉄砲。なんとなくわかっていたが凄まじい破壊力だ。とんでもない水圧で放たれる水鉄砲はまるでビーム。それは工事などで使われる水圧カッターのように、地面をえぐりとっていた。
(……確認する必要があるな)
俺は兎の絶え間ない攻撃とさっきから続く龍の水鉄砲を回避しつつ、水鉄砲によって砕かれた地面のコンクリートの破片を掴み、ペロリと舐める。
「……何か有毒なものが混ぜられているってわけでもなさそうだな」
と言う事は、本当にただの水。ただの水が凄まじい水圧を持って発射されているのだ。
(これは……厄介だな)
この水圧で発射されるとなると、かすっただけでもそこが切断されてしまい、致命傷になりかねない。間違いなく炎の方がマシだった。
しかも、炎だけではなく水もブレスも放てると言う事は……
「龍もデュアル?」
敵の手の内が、少しずつわかってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます