眠気と足音
次の日、朝10時に俺は目覚めた。
「ん〜あ〜……」
俺はいつも通り、床に足をつけると体を伸ばし、背中がバキバキと良い音を鳴らす。今まで通り、普通の1日。
「……おい」
……たったを1つの除いて。
「あ……起きましたか〜、朝になっちゃいました〜……アハハ……」
俺の言葉に、あからさまに眠そうな顔と眠そうな声をして、袖女は反応した。
そう、この女。なんと買い物から帰ってきてから、1回も休みを取らずゴリラの腕を調べていたのだ。マジでこいつおかしい。俺も1つの事に没頭する時はあるが、1回も休みを取らないほどやりこんだ事はない。何がそんなにこいつを突き動かすのか、是非知りたい所である。
(やれやれ……)
「まだ寝てもらうわけにはいかないからな」
「わかってますよ〜」
もちろん、調べて終わりと言うわけではない。その調べた結果を俺に報告してもらわなければ、その調べた事も意味はない。報連相は大事なのだ。
……報連相ってこういう意味で合ってたっけ。
「えーっと、じゃぁ報告しますね〜」
(おっと)
危ない危ない、いくら袖女だったとしても、話を聞いていないと言うのは失礼だ。眠い中で報告してくれているのだから、こちらもしっかりと聞かなければ。
「ゴリラの腕を調べたところ……何か薬物のようなものが大量に投与されていました。麻薬はもちろんの事、何かわからない薬までいろいろぶち込まれてましたよ」
「予想通りってところか……他には?」
「薬以外には……筋肉が異常に発達してましたね」
「ゴリラだから当たり前だろ?」
「いや、ゴリラだと言う事を加味しても、ありえない位筋肉が発達してるんですよ。こんなの生き物が持ったら、筋肉に耐えきれずに皮膚がちぎれちゃうんじゃないかと思うんですけどね……」
「……何か裏がありそうだな」
(筋肉の異常発達か……)
俺は生物学を習った事がないので、考察などはできないが、あのベドネとか言う奴が1枚噛んでいる事は確かだ。
(そういえば……)
「動物のスキル……動物がスキルを持つ原因は何かわかったか?」
おそらく、1番重要である質問。これがわかれば、何か弱点をつかめるかもしれない。
「う〜ん……そこなんですよね。正直言ってよく分からないんですよ。血液に溶けているのか、そもそも腕には無いのか……スキルについてはまだわからない事も多いので、もっと調べてみない事には……」
そう言いながら、袖女はチラチラとゴリラの腕の方を振り向く。
「……もうお前は寝ろよ?」
「……わかってますよ」
「……まぁ、大体わかった。よくやったぞ」
「…………」
「……? どうした?」
「……あ、いや……ありがとうございます……じゃあ寝ますね」
袖女は立ち上がり、フラフラとした足取りで、洋室に姿を消した。
「それにしても……」
明らかになると思ったのだが、流石にスキルの事について明らかにするのは難しいらしい。
やはり腕だけでは足りないのだろうか?それとも何か体に装置のようなものが……
(……いや、俺が考えることではないな)
今の俺にできる事は、目の前に出てくる障害をはねのけるのみ。壁を越える事だけだ。
対策なら昨晩に立てた。後はそれを実行するのみ。
今度こそ、終わりへ足音が聞こえていた。
――――
「あああ〜……ねむ……」
私は洋室に入り、寝る準備をしていた。
さすがに私もがんばりすぎた。ゴリラの腕のチェック。
十二支獣との戦いでは、私はどうしても力負けしてしまう。ならば、それ以外の事で結果を出すしかない。私が役に立てる場面はここしかないと思った。そのせいでがんばりすぎたのだろう。
「…………役に立ったかな」
私は布団の中に入り、ゆっくりと意識を落とした。
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