反省

「まさか、本当に十二支獣を倒してしまうとは……」


「ワン!!」


「やめてくれ……倒したのは1番下っ端だし、牛には手も足も出なかった……あれだけ大口を叩いておきながらこのザマだ」


「いえいえ……こちらからすれば、鼠だけでも倒してくれるだけで大金星ですよ!! これはそのお礼、1000万です……どうかお納めを」


「ああ……」


 次の日、俺は黒スーツに会いに行くため、できるだけ人目の少ない喫茶店に集合場所を決めた後、ブラックを連れて黒スーツと落ち合っていた。


「さて、こちら側の話はこれで以上になりますが……何か聞きたいことはありますか?」


「ああ……まぁな」


 俺はただ、黒スーツに報酬をもらうために会いに来たわけでもない。しっかりと聞きたい事もある。というか、それがメインと言ってもいい。


「俺は今回、大阪本部に乗り込んだわけだが……俺が狙われる可能性はあるか?」


 この質問。この質問の答えによって、俺のこれからの生活が大きく変わってくる。


 正直、足音が聞こえたあの日から、嫌な予感が消えないのだ。オカルト染みた話だが、予感と言うのは、意外にもよく当たる。さすがの俺でも、予感は対策できない。

 俺にできるのは、この予感が外れていることを願うだけだ。



「……申し訳ありませんが」



 しかし、俺の願いは。



「狙われないと言う保証はありません」



 無情にも、届く事はなかった。



「…………」


「申し訳ありません……任務を受けてもらった方には、こちら側でできるだけの個人情報のブロックをさせてもらっているのですが……だからといって、狙われない保証は無いかと……」


「……そうか、悪かったな。変なこと聞いちゃって」


 俺は黒スーツの回答に対してそう答えると、足早に会計を済ませ、喫茶店を出た。


(まずいことになったな……)


 いくら"千斬"が大きな闇サイトだとは言え、相手は名高い大派閥の一角である大阪派閥。いくら個人情報を守った所で、何らかの手段でばれるのがオチだろう。わかっていた事だが、興味を持たれない事を願うしかない。


(こんなことになるなんて……)


 調子に乗っていたのだ。東京と神奈川といった大阪に負けずとも劣らない大派閥の手からくぐり抜け、用心すると考えていても、自分の心のどこかで、「何とかなる」と考えてしまっていたのだ。


 今思えば、ただ特訓になると言う事だけで大阪本部に乗り込むなんて、昔の俺なら絶対にしない行為。


 駄目だ。いくら反射を手に入れたところで、他のスキル保持者とはスキルを持っていた年数が違う。自分のスキルへの開拓が既に済んでいるのだ。それに比べれば、俺はまだまだ劣等。自分のスキルへの理解もまだ足りていない。



 自分はまだ弱いと、頭の中に刻み込まなければ。



 しかし、やってしまった事はやってしまった事。自分の過ちを認め、次のステップに進まなければならない。


(できれば、できるだけ大阪にはいたい……とりあえず、何かしら異常が起きない限りは大阪にいてもいいだろう。

しかし、問題は異常が起きた後の話だ……)


 そう、起きた後の話。問題はそこなのだ。


(さすがに相手も大阪派閥……マンションを十二支獣で襲撃するなんて、人に見られれば話題になるような事はしないだろうが……だとすればどういう可能性がある? 人質? それとも不意をついての拉致で自分たちの陣地に引き込んで、見られないように殺す事も考えられるな……)


 広がる無限の可能性。無限の可能性と聞くと、良いことのように聞こえるが、なんとあら不思議。今この状況でその言葉を聞くと絶望しか感じない。


(とりあえず、何かしらの対策はしておかないとな)









 ――――









「帰ったぞ〜」


「おかえりなさい〜」


 俺はあの後、言うまでもないが我が家へと帰るために帰り道を歩き、我が家に到着した。


 それにしても、袖女との生活も慣れたものだ。人と言うのは密接な関係になっても時間が経てば慣れるらしい。


 俺と袖女の関係は、敵同士でありながら同居の相手と言う複雑なものだが、それでも人間と言うのは、時間が経てば適応する。


(最近は驚かされる事ばかりだな……)


「さて……今日もゲームするか」


「やりましょう! 今回は全勝しますからね!」


「無理無理、お前は俺には勝てんよ」


 家に帰ると、最近の日課のゲームに洒落込む。袖女は基本的に家事スキルが高いので、1時間位で全部の家事を終わらせてしまう。


 その間の時間を埋めるために袖女自身が考案したものだが、俺も意外とハマってしまった。1人でのびのびとゲームをするのも良いが、2人で毎日のようにゲームするのも楽しいものである。


(あ、そういえば……)


「おい」


「なんですか〜」


 袖女はゲームに夢中なのか、こちらに目線を向けず、テレビ画面をじっと見つめながら返答してきた。ゲームをしながらだからしょうがないが、こちら側を見ずに口だけで返答するとは、礼儀と言うのを知らないらしい。


「お前、これからも任務についてくるのか?」


「…………」


 袖女とは、重要な任務には同行すると言う約束を結んでいる。


 しかし、今回。袖女は牛に見るも無残に蹴散らされた。正直、俺が助けなければ間違いなく死んでいた。


 1番最初にこんな目にあったのだ。袖女に少なからずトラウマを与えたはず。


 そんな状態で同行されても、こちらが困るのだ。


 なのでこちら側からすれば、同行しないでもらった方がありがたいのだが……



「…………何を言ってるんですか、行きますよ、もちろん」



「……そうか」



 袖女は俺に対して、行くと言う決断をした。


 少し意外である。袖女は俺に大阪で遭遇した時、重要な任務の内容を除いて全てを話した。なので結構ドライだと思っていたが、俺の考えは違っていたらしい。神奈川のチェス隊の意地かはわからないが、こればっかりは譲れない様だ。



「なら、次は足引っ張らないでくれよ」



「……わかってますよ」



 そう言った後、テレビのゲーム画面には、袖女のキャラクターが敗北した画面が写っていた。

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