VS十二支獣

「さ〜て、どうするかね」


「2対2ですか……ちょうどいいじゃないですか、私が牛やりますから、あなたが鼠の相手をしてくださいよ」


「おい、それお前が強い奴とやりたいだけじゃねぇか」


 こちらだって強い奴の相手をしたい。今回の任務を受けた理由は金ではなく、修行目当てなのだ。そっちで勝手に決められては不公平だ。


「お前、そこは公平に――――」


「グアアァァァ!!!!」


 そこまで俺が言った時、もう我慢できなくなっていたのか、俺に向かって鼠が。袖女に向かって牛が突進してくる。


「あちら側が指名してくれましたよ! 残念でしたねぇ!!」


「チッ……まぁいい」


 十二支獣との初対戦が始まった。









 ――――









「キュウウウゥゥゥ!!!!」


「うるっせぇなぁ……耳がキンキンするわ」


 ネズミ……いや"鼠"は俺と対面すると、お互いに睨み合う。ここで無策に突っ込んでこないあたり、戦闘のいろはがわかっている。明らかに人の手が入れられていることが証明できるだろう。


(ただの動物と思わないほうがいいってことか)


 そんな事を考えていると、突然、鼠がグッと体を伸ばし、突撃体制を整えてきた。


(くる!!!)


 俺もとっさに身構え、厳戒態勢に入るが……


「なっ……」


 鼠の姿が一瞬にして消える。


 高速で移動しているのか、スキルで瞬間移動しているのか。それは不明だが、今までになかった現象に、俺の思考は一瞬停止した。


 そして消えたと思ったその時、俺の腹あたりに鼠が現れる。


(やばい!!!!)


 そんなことをとっさに考えるが、もう遅い。腕をクロスしてガードすることもできない。時間が足りないので、回避することなど言語道断。


 鼠はそのまま俺の腹に向かって突撃した。


「がああぁぁっっ!!!!!」


 そのあまりの痛みに、俺は久しぶりに苦痛の悲鳴をあげる。突進された腹からは聞くだけで不快になるような不協和音が鳴り響き、体はくの字に降り曲がって、ビルの屋上から吹っ飛び、隣のビルの窓を突き破り、部屋の1つに叩き込まれた。


「ゴホッ……痛っつ……」


 突進された勢いがなくなった後、腹の痛みをこらえながら、周りをしっかりとチェックする。叩き込まれた部屋はコンピュータールームだったようで、至るところにパソコンが散乱している。


(なんつー速度だ……そしてそこから生まれる推進力による突進……)


 一筋縄ではいかない。そう確信したと同時に、鼠がビルの屋上から俺が叩き込まれた部屋に入ってくる。


 あの速度の移動に、目の前に移動してから再び踏み込んでゼロ距離からの突進。そして、目を見張るべきはそれを可能にできるほどの速度。


「毎度のことながらキッツイな……だが……)


 俺はあの1連の動作で、しっかりと鼠に対する情報をつかんでいた。


(あの速度での移動は、瞬間移動とかテレポートみたいなもんじゃない……!)


 あの姿かたちが見えなくなるほどの移動は、テレポートのように瞬間移動しているわけではない。超スピードで移動しているだけだ。


 超スピードを可能にする原理はスキルによるものなのか、単純に肉体改造によるものなのかは定かではないが、超スピードで動けると言う事実は確認できた。


 そしてもう1つは……


(来る……!!)


 またしても鼠は一瞬にして消え、俺の腹辺に現れた。さっきと全く同じ現象。鼠はさっきと全く同じ動きで、俺に向かって接近してきた。


 しかし、さっきと同じなのは、鼠だけだ。


「読めたぜ!!」


 俺は事前にその動きを察知し、自分の目の前に拳を突き出していた。


「ヂュッ……」


 その拳の予測はあたり、鼠の顔に見事直撃。2メートルほど後ろに吹っ飛んだ。鼠自身の速度も合わさり、そのダメージは倍増していることだろう。


 そう。これが俺のつかんだもう1つの情報。思考回路の単純さだ。


 鼠の最初の攻撃は、超スピードで相手を翻弄し、懐に潜り込んでもう1度踏み込み、ゼロ距離で攻撃を叩き込むと言うもの。


 一見、自分の速度を生かした良い攻撃だと思いがちだが、対処できる能力が俺になかっただけで、相手のスキルによっては返り討ちになりかねない。相手の懐に潜り込むと言うのは、それ相応のリスクを背負うものなのだ。


 それを理解せず、最初の攻撃からそんなリスクのある攻撃をすると言う事は、所詮は鼠の脳と言うほかない。


「危ない危ない……勘違いするところだった」


「所詮は鼠なんだ……人間様に勝てるかよ!!」




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