3度目の侵入

「到着……」


「着きましたね」


 黒スーツに情報を提供してもらった日の夜。9時になると、袖女を引き連れ、大阪派閥本部に来ていた。大阪派閥本部の場所は公開されているのと、見た目が超でかいビル群なので割と簡単に隣の建物の屋上まで近ずくことができた。


「警備は……見えるかぎりたった2人?ずいぶん手薄なんですね」


「まぁ、中には化物がワンサカいるんだろうからな、人間の警備員はこれくらい十分なんだろう」


「ですね……」


 そういえばだが、袖女は動物兵士の事を前々から認知していた。よくよく考えてみれば、それ関連の任務を行うのだ。ある程度の情報は当然伝わっていて当然。


「……で、ここに入るための作戦とはなんですか?」


「まぁついて来いって」


(それにしても……)


 何と言うでかさの本部だ。まるでビル街。でかさだけなら、東京の本部を何十倍も上回っているだろう。


 俺は反射を使い、屋上の地面を蹴り上げる。袖女も当然のごとくスキルによって空を飛んでついてきた。そして、左手に闘力操作を使いチョップを作りあげる。


「せ〜のっ!!!!」


 俺はビル街の中の1つのビルの壁に向かって、一気にチョップを突き刺した。


「よっ……」


 俺は突き刺した腕を使い、壁に着地する。


「何やってるんですか……」


「うるせぇ、お前みたいに完全な浮遊は出来ねぇんだよ」


「え? でも万場家のときは……」


「あれは踏ん張りが効かないんだ」


 俺は袖女にそう言うと、突き刺した左手を軸に、壁に足を強くグリップして、反射と闘力操作を使った右手で壁を思いっきり殴った。


 そうなれば、殴られた壁に起こる現象はたった1つしかない。


「よし」


 案の定、俺が殴った壁は外側から破裂し、大きな人1人分の穴が空いた。さらに、外側から攻撃したことによって、瓦礫などが全部内側に行く。瓦礫が外に落ちたときの音によって、気づかれるのを遅くする狙いもあるのだ。


「……こんなことするんだったら、私でもできたのに」


「他人は信用ならん」


「2週間以上同居してきてそれですか」


「まぁお前だからな」


「ちぇ……」


 俺が室内に入ったのを確認すると、袖女も俺に続いて、ビル内に入ってくる。先に前にいかれるより、俺を確認してからついてきてもらった方が思い通りに事が進むし、そうしてもらったほうがありがたい。


「……ん?」


「どうしたんですか? 早くいきましょうよ」


「ああ……」


 袖女は何も感じていないようだが、俺は1つ、少しの疑問を感じていた。


(……何もないのか?)


 大阪派閥だって、神奈川ほどの科学力では無いにしろ、監視カメラぐらいはあるはずだ。そして監視カメラがあるなら、既に俺や袖女が写っているはず。ブザーか何かの緊急音が本部中に伝わるはずだ。なのに、俺たちが部屋に入っても何も反応はなし。


(罠か……? それとも余裕か……?)


 真意は定かではないが、今は前に進むしかない。それに無視してくれるなら、こちらとしても好都合だ。


 俺は考えるのをやめ、ビルの内装を確認するため、歩を進めた。









 ――――









「どうやらこのビルはいたって普通の内装……そこら辺のビルと大差ないようですね……」


「だな……」


(何か違うと思っていたんだが……)


 中に入ってから数分、近くの部屋を捜索してみたが、本当に普通のビル。オフィスがあったり喫煙室があったり、何の目新しさもないビルだ。


(パソコンにもパスワードがかかってたし……このビルでやる事はなさそうだな)


「おい袖女。次のビルに行くぞ」


「へいへい」









 ――――









「ここもダメか……」


「ここは1番大きいビルのはずですけど……1人もいませんでしたね」


(明らかにおかしい……何がどうなってる?)


 俺達は1番大きいビルの屋上に佇み、今まで状況チェックしていた。


 深夜とは言え、まだまだ職員ぐらいは居てもいい時間帯の筈。なのに動物兵士はおろか、職員らしき人影も見えない。


(そう言う職場ってことなのか……?)


「あの〜ちょっといいですか」


(……いや、そんな訳がない。普通の派閥と違って、大阪は5本の指に入る大派閥なんだ)


「おーい、ちょっと〜」


(忙しさだって5本の指に入るはず。それが普通の企業でもまだ働いてるような時間帯にいなくなるなんて……)


「あの……」


(やはり罠なのか……? だとしたらその内容は……?)


「……あのぅ」


「んあ?」


 俺は袖女の声に反応し、袖女の方を向く。何故か袖女は少ししょげていて、どこか元気なさげだ。


「……? どうした? 何かあったのか?」


「あなたのせいじゃないですか!!」


(俺のせい? ……やはり女ってのわかんないな)


「はいはい。それで、何の用だ?」


 俺は袖女の怒号を聞き流し、その内容を聞こうとする。


「はいはいって……はぁ……なんだか揺れてません?」


「揺れ?」


「はい。本当に少しですが……なんだか地面が揺れてる気がするんですよね」


 袖女にそう言われ、俺はそれを確認するため、足の裏に意識を集中させる。


 その足の裏からは、袖女の言う通り、確かな微振動が感じられた。


「確かに揺れてるけどそれが……」







 瞬間。







 袖女の後ろの地面が盛り上がった。










「……ッ!」


「え? ちょっ!!?」


 俺は盛り上がりを確認した瞬間、右腕を袖女の腰に回し、ぐいっとこちら側に引き寄せる。


 一方その盛り上がりは、予想通りそのまま盛り上がりきって、爆発を起こした。


「何が……!?」


 少し経つと砂煙が晴れ、その元凶があらわになる。



 1つは小さなネズミ。といってもネズミと考えると破格のでかさで、犬と間違えるほどの巨体。


 もう1つは大きな牛。象並の大きさを誇る。大きさも印象的だが、1番印象的なのは、なんといってもその上半身だ。

なんと2足歩行で上半身が人間。俗に言うミノタウロス。


 その2体は俺達に体を向け、明らかにこちらに敵対している。そしてその体から放たれる威圧感。


「そっちから来てくれたか……!!」


 十二支獣だと、聞かれなくても理解できた。







「……いや、早く離してくれません?」



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