久しぶりのお買い物

「どうしたんですか! 急に外へのお誘いだなんて〜あなたも遂に感謝の心と言うものができたんですか〜?」


「あんまり調子に乗るな……」


 あの後、俺たちは互いに外用の服に着替え、まだまだ明るい外へ向かうため、ドアを開けて外に出た。


 袖女はいつもの私服で。俺は古着屋で買った私服で。


 そして、袖女に至っては、外に出てからずっとこんな感じだ。


(うっぜぇ…………)


 ウザいウザいウザすぎる。袖女とは、9月の序盤から付き合いがあるが、関係が始まってからでダントツのウザさだ。


「俺のせいでお前仕事休んだだろ? その埋め合わせだよ……」


「ふ〜ん、そうですか〜! そうなんですか〜!!」


「…………マジでそれだけだからな」


(調子に乗りやがって……)


 正直、2ヶ月前まで殺し合う関係とは思えないほどだ。


 つまり、この袖女は今、2ヶ月前に殺されかけた相手と服を買いに出かけている。

 こちらから誘った話だが、なんとも凄い話だ。


「……そういえば、お前はどこに行きたいんだ?」


 ただの俺の先入観だが、女と言うものはかなりブランドを気にするものだ。漫画とかのセリフで、「すご〜い! この服どこのやつ〜?」と女キャラが喋っていたのを死ぬほど見たことがある。漫画とかの知識なので、これを聞くと気持ち悪いと思われるかもしれないが、そこは安心してくれ。あの幼馴染経由で、現実でも、1.2回は小耳に挟んだ事はある。


「ん〜……そういえば……その服どこのやつ何ですか?」


 袖女は俺の服の裾を引っ張りながら、その言葉を発してくる。


「え? ……ただの古着屋だけど……」


「へぇ〜……じゃ、そこで」


(えぇ……)


「そ、そこでいいのか?」


「そっちのほうがいいんでしょう?」


「あ、ああ……」


 女と言うのはよくわからん。こういうのは新品が欲しいと言うと思ったのだが、まぁ安価で済むと言うのはいいことだが、やっぱり女と言うものはよくわからない。






「ここですか……?」


「ああ……店を変えるなら今のうちだぞ」


 それから数十分後。何事もなく古着屋までの道を歩いていた俺たちは、ついにその古着屋へ到達した。


 本当に何もなかった。ただ歩いているだけだった。ただそれだけのことなのに、今までが非常識すぎたせいで、何事もないことに少し違和感を感じてしまう。これも1種の職業病なのだろう。


 俺がそんなことを思っている最中、袖女は古着屋を見ながらボーッと立ち尽くしていた。


(まぁ……そうなるのも当然か)


 この古着屋は、服はもちろんのこと建物もかなり古い。木製の柱もかなりボロボロで、今にも倒れそうだ。周りに小綺麗なビルや施設がある分、古着屋がさらにボロく見えてしまう。


(……さすがに嫌か)


 これはあくまで俺のためではなく、袖女に看病した話とストレスを引っ張られないようにするためのメンタルケアだ。無理にここに入って、袖女に我慢させては意味がない。


 少々お金を使ってしまうが、ここは他の店に切り替えた方が賢明だろう。


「……なぁ、別にーーー」


 今からでも変えていい。そう言おうとすると……


「じゃ、いきましょっか」


(……マジ?)


「いいのか?」


「言ったじゃないですか、ここでいいって……あ、やせ我慢とかじゃないですからね」


 ……まぁ、こんなこともう2度としないだろうし、こちらとしてはとてもありがたい。袖女も歳は知らないがしっかりと大人だ。後でまた拗ね出すみたいなのはないだろう。もしそんなのが起これば俺が外に叩き出す。


 そんな事を考えながら、開けっ放しのドアの暖簾をくぐり、古着屋の中へ入った。


「ここに来るのも久しぶりだな……」


 中に入った瞬間、木造建築特有の木の匂いが鼻を通る。


 ここに来たのは2週間近くぶり。普通に考えればそこまで久しぶりでもないが、その間に起きたことの内容の濃さにより、俺の体感的には久しぶりに感じてしまう。


「いらっしゃーい……って、あの時の兄ちゃん! 久しぶりだねぇ」


「覚えててくれたんですか?」


「こんな店に来てくれる若い人なんてそうそういないからねぇ。印象に残るんだよ」


「そっすか……」


「またうちに来てくれるなんてうれしいねぇ……ん?」


 おばちゃんと俺が話していると、後ろからコツコツと店に入る足音が聞こえる。


「へぇ……こうゆうレトロなのもいいですね」


「俺も1回しか来たことないんだけどな……ほら、さっさと選べ」


「……あなたは本当に余計なことを言うのが得意ですね」


 袖女はぶつぶつと小言を述べながら、店の奥へと入っていった。


(俺も行くか……)


 俺も片足を一歩前に出し、俺も店の奥に入ろうとした時、おばちゃんが慌てた様子で俺に駆け寄ってくる。


「ち、ちょっと兄ちゃん! 今のは……」


 どうやら、おばちゃんは袖女の事が気になっているようだ。


(う〜ん……)


 一瞬教えるかどうか悩んだが、どうせ相手はおばちゃんだ。同居しているとかの重要な情報以外は教えてもいいだろう。


「ああ……まぁ、知り合い? って感じだけど…」


「あんなべっぴんさん見たことないよ!! あんな人と知り合いなんて…………チャンスなんじゃないのかい!?」


 おばちゃんに、妙に興奮した様子で詰められる。いくら歳をとろうと女は女。こういうことは大好物のようだ。


「いや……別にそういうのは思ったことないし」


「何いってるんだい! ああゆうタイプはいざ付き合うと尽くすタイプだよ!! おばちゃんにはわかる!!」


「はぁ……」


(尽くすタイプねぇ……)


 俺の目線には、店の奥で服を選ぶ袖女の姿。


 確かに家事などはやってくれるし、尽くすタイプかもしれないが、元々敵同士だし、今はそういう風には見えない。よくある敵同士の禁断の恋なんかは夢物語なのだ。



 そんなことを思いつつ、おばちゃんとの話を切り上げ、俺も店内に進んでいった。




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