頭戦 その3
右拳に溜められた、田中伸太史上最高と言っていい一撃。
いまだに耳鳴りが鳴り響き、後ろからはいまだに爆破音が聞こえる。
そんな俺の一撃は……
「……まぁじ?」
空中でピタリと止まってしまっていた。
「ほう……今のはなかなかだったぞ……」
空中で止まった拳。それは押せども押せども前に進まず、相手の身を削るには至らない。何か壁に遮られているような感覚。
身を使って攻撃することによる、感覚的な情報は掴めたが……
(できれば……いや、絶対にダメージは与えたかった……)
ダメージを与えられなくても……なんてことを表面的に考えていたが、心の中の奥底では、少しでもダメージを与えたかったらしい。
俺は結局、自分で自分を裏切っていた。
「本当なら、わしの部下に加えたいところだったが……お前は死んでも許さん」
ゆらり、とジジイの巨体が動き出す。右手に無造作に拳を作り、一歩前に踏み出してくる。
(マズイッ、反射――)
俺は向かってくる拳をしっかりと視界に入れ、反射を発動する。今までは自分の体に反射をまとわせ、通常、一度に一発分しか反射できない所を体の1部分に使うことによって、敵の複数発の攻撃でも防げるようにしていた。
しかし、今回のこの拳は俺の体のどこにヒットするかわからない。なので体に使うのではなく、相手の攻撃に対して反射を使う。
これ以上ないと考えていい反射の使い方。攻撃が不発してからのケア。一見完璧に思えた。
……が。
(よし、防御できた……)
ズムン
「……が?」
ズムン
ズムン
二発三発。胸の下の部分に攻撃が入る。連続で伝わる強い衝撃。その数は10、20と増え続ける。
止まらない。止まらない。その連鎖はとどまることを知らず……
ついに後ろに吹っ飛ばされるまでに至った。
吹っ飛ばされた体は数メートル先にある瓦礫の壁にぶつかるまで止まる事はなかった。
「あぁ……がふっ…………」
(血が……!)
壁に打ちつけられ、強引に止まった体はただ拳で殴りつけられたにもかかわらず、悲鳴をあげていた。
口から溢れ出す血。それは他の何よりも、体のダメージを証明づけていた。
「もうお手上げか……? どうだ? わしの"未来代わり"は……?」
――――
「未来……代わり……?」
ジジイは一歩ずつ一歩ずつ、地面を……いや、瓦礫を踏みしめながら近づいてくる。
「ああ、わしのスキル、未来代わり。これでお前の攻撃やら防御やらを無効化したというわけだ」
(だが、スキル名がわかったところで……)
「スキル内容が分からなくてはどうしようもない……そう言いたげの顔だな?」
「…………」
現実だけではなく、考える思考回路まで読まれてしまった。もう完全にあっちのペースと言うことか。体だけでなく、西神まで押し負けてしまってはいけない。逆転はかなり困難になってしまう。
「くっ……」
負けては駄目だと思っていても、人間の精神と言うものは人間ではコントロールできない。負けてはいないと思っていても、実のところ、心の奥底では負けてしまっているのだ。
だからこそ困難。だからこそ精神。
俺は遂に、負けの一歩手前のところまで来てしまった。
「……ふん。だが、こんなところで終わってしまうのも面白くない……そうだな……よし、わしのスキルを教えてやろうではないか」
「……はぁ?」
「まぁそう不思議がるな。お前をまだまだ痛ぶりたいだけだからな……わしの積み上げてきたものをここまでしてくれたんだ。まだまだ……もっと……お前の苦しんでいる顔が見たい」
なんちゅう悪趣味なジジイだ。悪趣味もここまでくると笑えてくる。
だが、スキルを教えてくれると言うのなら、それほどありがたい事は無い。そのスキル内容が俺のスキルで対応できるものであれば、十分に逆転は可能だ。
俺がその言葉に、一抹の希望を抱いた時。
「わしのスキルは……未来の自分に物事を代わりに行ってもらうことができる」
それは、跡形もなく砕け散った。
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