頭戦

「…………」


「よくもやってくれたな……」


 とどめをさそうと思った瞬間、まるで物語の主人公かのように登場した1人の男。白髪で髭を蓄え、和服で体を整えている。明らかにボスのような雰囲気だ。


(くそ……いつもこうだ……いつも……)


 いいところでイレギュラー。いいところで予想外の行動がでる。俺は世界にとっては敵キャラらしい。


「はぁ……あんたがボスか?」


 とにかく切り替えろ。目の前に敵が来たなら退けるだけ。ただそれだけを考えるんだ。


「あ……? わしはボスなんかでは無い!! 頭と言え! 頭と!」


 なんだこのジジイは。言葉からはイキってるだけにしか聞こえない。


 まぁとりあえず……


「殺る」


 俺はジジイに向かって右手をかざす。老人だからって手加減はしない。俺が考える最善の方法で殺る。


「空気反射」


「むっ!!」


 空気反射による超強力な空気砲。これが俺が出したジジイに対する回答札だ。


 相手のスキルが何一つわからない以上、近づくのは危険だ。遠距離攻撃があるなら、まずはそれを使うのは定石。これが有効ならばこれ1本で押し切る。これがダメならば他の手を考える。ただそれだけだ。


(俺的には前者だとありがたいんだが……)


「むん!!」


「…………そうもいかないか」


 俺の放った空気泡はジジイが叫んだ瞬間爆発四散。パン!と風船が割れたような音を立て消え失せた。どうやら後者らしい。


「……ふん、小癪な……こんなやつにわしの屋敷がこわされたと思うと腹が立ってくるわ」


「チッ……」


 おそらく、空気砲を撃ったときに生じる空気の歪みで気付かれたのだろう。それを動かず相殺できると言う事は衝撃を放つ的な能力か?


(まだわからない……要警戒だな)


「ふっ!」


 俺は次に足に反射を使い、ジジイの周りを高速で巡回する。いつぞやの時に紹介したずっとぐるぐるしまくる戦法。結局袖女の時は使わなかったわ、オレも一時期忘れてたわで今の今まで不憫だったこの技術。今使わなくていつ使うと言うのだ。


 止まらずノンストップで加速し続けることにより、最高速はジェット機にも勝るとも劣らないだろう。


「む!」


(今更気づいたのかよ……)


 俺がどんどんスピードを上げ、回転していくことにより、砂塵が巻き上がり突風が発生する。


 このぐるぐるしまくる戦法はただヒット&アウェイを繰り返すために行ったものではない。これはぐるぐるしまくる戦法を利用した応用。ジジイを中心とした砂竜巻。これで、もしこのレベルのスピードを追えたとしても、砂や瓦礫が邪魔をして視界的に見えない。


(そして、砂や瓦礫が浮くって事は……)


 手元にビシビシと砂や石が当たる感覚。手をパーからグーにするだけで手に大量の小石や砂が掴まれる。


 俺はその小石や砂を投げつける。もちろん反射を使うのを忘れない。反射は体の1部分しか使えないが、そこもまた応用でなんとかする。投げる瞬間だけ反射を足から手に移動。上がったスピードはすぐにはなくならない。少し位解除しても、スピードに関しては問題ない。


 回転しながら投げる事によって、相手からしたら360度すべての方向から攻撃されている。避けることも不可能なオールレンジ攻撃。


(これでどうだ……!)


 頭を使った渾身の一手。かなり自信のある攻撃だ。少しは効いて欲しいものだが……


「むぅん!!」


(……マジ?)


 またもや、ジジイが叫んだ瞬間四散。俺の攻撃は無と化した。


「……」


 俺はこの行動が無意味だと分かった瞬間、ぐるぐるするのをやめ、ジジイから距離を取る。


「……んお? なんだ、もう終わりか?」


「…………」


 思考をめぐらせる。仮説を考える。相手のスキルを見るような動きを脳内から消し、相手を本格的に殺す策を考える。


(物理的な攻撃も無効化された……空気反射のような特殊な攻撃も無効化……相手から攻撃しないところを見るに、耐久できるタイプのスキルか……? いや、すべての攻撃はあたらず、ジジイに当たる直前に消えていた。応用の可能性がかなり高い)


(……と、言う事はどこかに対象のものを飛ばすスキル? その応用で攻撃を違う位置に飛ばしたと言う可能性はありえる。いやまて! だとしたら俺自身を飛ばせばいい話。飛ばす系のスキルはないと仮定したほうがいいな……条件があるのかと思ったが、見たところそんな所は見られない。身振り手振りの体動かす条件ではまず無い。いや、そもそも条件自体がないのか? もしかしたら、無効化できる威力に上限があるのかも……なら)


 湧き上がる1つの案。それは効けば効果的だが、無効化されてしまえば大きな隙を見せてしまう。いってみればバクチのような案だ。


 一瞬、こんなことをしていいのか、失敗したらどうするんだと言う思いが湧いてしまう。


 だが。


(迷ってる暇は無い!)


 善は急げ。そのことわざは戦いにおいても適用される。


 戦いの場において、迷いこそが天敵。迷いが一瞬の隙と油断を生み、余計なチャンスを与えてしまう。



 ならやる。すぐに殺る。




 さぁ、魅せていこう。





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