ボス降臨
「よいしょと……」
俺は上の瓦礫を押しのけ、闇夜へと姿を現す。夜はまだまだ終わらないようで、月がしっかりと大阪の街を照らしている。
「早く探さないと……」
瓦礫の上に立ち上がり、急いで周りを見渡す。
俺が屋敷を破壊した理由を忘れてはいけない。この大量の瓦礫の中で、唯一残っている部分を探さなくては。
しかし、この作戦を実行する中で、1つ忘れてはいけない懸念点がある。
それは、そもそも設計図がある部屋を守りきれず、設計図ごと潰れてしまった可能性だ。
もしかしたらここのヤクザ達は防御面が貧弱で、瓦礫にすら負けてしまった可能性もある。この点に至っては相手が優秀であることを祈るしかない。こちらがやれる事は無いのだ。ぜひとも生き残っていて欲しい。いやマジで生き残ってないと困る。
「…………おっ」
(よかった……いてくれた……)
瓦礫の中に、1つ大きな膨らみを見つける。そこは露骨に大きな球体型に出っ張っており、人力で守られていると言うことが自然と理解できた。
発見できれば話は早い。俺は焦ることなく、極めて冷静に出っ張っているところに近づいていく。闘力操作を使うことなく、反射を足に使うこともなく、喋ることもなく、足音だけを響かせ瓦礫を歩いて行った。
(俺の予想が正しければ……)
「……!! おい! そこに誰かいるのか!?」
(来た……!)
「そこにいるなら頼む!! 瓦礫をどかすのを手伝ってくれ!」
(よし……ここは仲間のふりをして……)
「……ああ! 少し待っててくれ! すぐに出してやるからな!」
俺は瓦礫の下から聞こえた声に反応し、瓦礫を急いでどかし始める。しかし、何で支えられているかがわからないため、瓦礫が崩れないように、小さな瓦礫から慎重に取り出していく。
「お……?」
「よ、よし!! 次はそこの瓦礫をどかしてくれ……!」
瓦礫はそこまで多く積もってなかったようで、瓦礫を1個か2個どかすだけで容易に中の人を見ることができた。
中にいるのは5人。もちろん全員男でその中の1人には何か丸めた紙のようなものを担いでいる。
(これは……)
そこで俺が気になったのは、中の人が見えたことでもなく、丸めた紙でもない。俺が気になったのは、その男達を包んでいる緑色の膜の様な物だった。
中を観察すると、その膜によって瓦礫を防いでいるようだった。
(バリア……ってやつか?)
これはすごい。ヤクザがこんなスキル保持者を味方につけているとは。バリアはスキルの中でも有名な部類に入るスキルだが、実際に見た事はなかった。
しかもこんなドーム状に広がるバリアは東一の教科書でも見た事がない。かなり珍しいスキルと見た。
そんなことを考えているうちに、ついに人が1人通れるまでにバリアが露呈する。
「よし! よくやった! さぁ、手を伸ばして順番に引っ張ってくれ!!」
「え……でもバリアが……」
「バリアのことなら心配するな! このバリアは特別。生命のある物を通して、生命のないものを通さない仕組みになっている! 問題ないから手を伸ばして引っ張ってくれ!!」
「は、はい!」
いいことを聞いた。そんな仕組みだったのか。
まぁ。
終わった頃には……そんなこと覚えてないだろうがな。
伸ばされた手に対し、俺もその手を掴むために手を伸ばす。
そして…………
「よ、よし!! つかんで……「ごめんな」へ?」
延ばされた手を吹っ飛ばした。
「ぎゃああああああああああ!!!!」
「なっ、何が!?」
仲間の腕が吹っ飛ばされ、周りの人間も動揺しだす。
さて、なぜこいつらは俺に気づかず手を伸ばしてしまったのか。まずはその説明をしなければならない。
まぁ簡単な話だ。こいつらは俺が破壊工作を始めたあたりでセッティングにつき、守りに入ったから俺の素顔も知らなかった。本当にそれだけなのだ。
もしも設計図の部屋に行くまでに俺の姿を確認していたら、声や顔などで、穴が開いた瞬間にばれてしまうのではないか。そう考える人も少なくはないだろう。だが、俺には顔も声も聞かれていない、見られていないと言う確証があった。
少し考えてみて欲しい。自分が防御系のスキルを持っていたとして、屋敷を破壊するようなスキルを持った奴が侵入したとしよう。
率直に聞くが、そんな攻撃的なスキルを持った人間に近づくか?
答えは当然、ノーだ。
つまりこいつらは、極力俺に近づくことなく設計図がある部屋へ移動したはず。
よって俺の姿も、声も、ましてや破壊方法すらも知らず設計図を守る機械と化してしまった。
「まさか……!!!」
今更、身の危険に気がついたようだがもう遅い。空いた1人分の瓦礫の穴に突入する。中は本当にバリアで守られており、まるで洞窟のように空洞が出来上がっていた。
「お前ぇぇぇぇぇぇ!!!!」
空洞の中の1人が半分狂乱した状態で突っ込んでくる。だが、やはり俺の思った通り、何かスキルを使った様子は見られない。防御系のスキルを覚えてしまったことによる弊害。対面したときの戦闘能力の無さ。これが完全に露呈してしまった瞬間である。
俺はその男の腕の大振りをいなし、男の胸に手を置いた。
「反射」
一瞬にして吹き飛ばされる男。それは瓦礫の壁に叩きつけられた後、胸に大きくえぐられた後を残し、動かなくなった。
「ひぃぃっ……!!!」
その光景を目の当たりにし、ヤクザの1人が尻をつく。この程度で怖がってしまうと言う事は、おそらく新参者なのだろう。そうだとしたらとてもかわいそうだ。就職した会社が数日で倒産してしまった様なものだからな。
俺は尻をついた男に一瞬だけ目線を移した後、お目当ての設計図を持った男に目線を移し、余裕を見せるために、ゆっくりとした口調で喋りかける。
「なぁ……もう諦めたらどうだ?」
「っ……! 誰が……!」
「俺の目当てはアンタらの守っているその設計図なんだ……渡してさえくれれば、俺はアンタらに何も手出ししない……」
「俺たちは……まだ負けてない!!!」
「……現実を見ろよ。この瓦礫の山。これの何処が負けてないって言うんだ……とっとと認めたらどうだ……? そこの男みたいに」
俺がそう言うと、設計図を持った男はチラリと尻をついた男を見る。
その反応を見たところ、俺の精神的な攻撃は効いているようだ。
恐怖と言うものは伝搬する。感染する。まるで病気のように、海で巻き起こる津波のように、広がり、つながり、後押しされる。
それは抗いようのない、人間では逃れることのできない苦痛と呼べるもの。
もはやこの男に勇気など残ってはいないだろう。
勝敗は決まった。
「さぁ……渡せ」
俺が一歩を踏み出し力のない腕に包まれた設計図を奪おうとしたその時。
その腕が……急に後ろに下がった。
「……何のつもりだ」
「これは……渡さない!!」
「…………」
「これは大事なものなんだ……だから渡すわけにはいかない!!」
最後のひとしぼり。
自分の心の中にある勇気を絞り出す雑巾から絞り出した最後の1滴。それがこの男の行動を変えた。
男の意地と言うやつだ。同じ男であるが故に、こうなったときの男の頑固さと言うのは嫌でも理解している。
こうなってしまえばてこでも揺らがない。
「…………残念だ」
殺す。
そう思い、設計図を持った男に向かって、手を伸ばしたその時――――
「――――よくやった」
爆発。上に積み重なった瓦礫が吹っ飛ぶ。耳をつんざく音が聞こえる。
殺気を感じる。
俺は本能的にその場を離れ、その空洞から脱出する。
「……っ!!!」
「か、頭ぁ……」
「後は……わしに任せろ」
別格の雰囲気を持つ、1人の男が降臨した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます