偽ブラック
「なんでブラックが……」
ブラックが俺に向けて、敵意を持った視線でにらみつけてくる。それだけでも俺は衝撃だった。何せあの忠誠心の高さでも有名な犬でありながら頭もいい。そんな犬が突然飼い主に向かって敵意に現した。ブラックを知る俺からしたら大事件である。
(……いや、そんなことは問題じゃない)
邪魔するなら殺る。それは変わらない。
俺が右手を振り上げ、ブラックに攻撃しようとしたその時。
「ワン!!」
「……ん?」
右耳。それも耳元ほどの近くで、犬の鳴き声が聞こえる。
「ブラッ……ク?」
「ワン!」
ブラックが俺の肩に乗っている。
俺の……方に?
「まて……まてまて」
俺の肩にブラック。俺の目の前にもブラック。
「ブラックが…… 2人?」
由々しき事態だ。ブラックが2人。これからは食事代が2倍になってしまう。明日からはやっすいドッグフードで我慢してもらわなければ。
「ワン!!!!」
「痛っ!! ……わーってるわーってるって、ふざけねぇから」
肩にいるブラックが前足で俺の顔を叩いてくる。
肩にいるブラックと俺の目の前にいて敵意剥き出しのブラック。もともとブラックは肩にいて、俺に敵意を出す行為等は絶対にしなかった。そしてさっきの俺の考えを理解しているような行動。間違いない。まず間違いなく肩にいる方が本物のブラックだ。
「グルル……」
「さて……殺すか」
戦闘開始だ。
俺は偽ブラックに向かって右手を振るう。もちろん、闘力操作と反射を忘れない。俺は寛大なのだ。苦しむ時間がないよう、2つのスキルで体を粉々に砕き、血と液体のような何かにしてやろう。
だが、俺のそんな目論見は偽ブラックによって砕かれた。
なんと、攻撃が直撃しようとしたその時、偽ブラックの姿が一瞬にして消えたのである。
「何っ!?」
「ワン!!」
「後ろかっ!」
俺はブラックの声に反応し、既に振り下げた右手を今一度振り上げ、三日月を描きながら俺の真後ろを攻撃する。常に動いたことにより目線も止まることなく動き、一瞬しか見えなかったが、確かに偽ブラックの姿が確認できた。
しかし……
「くそっ……」
力強く振った拳が空を切る。またもやハズレだ。
どうなってんだ……
(犬を操作するようなスキルの連中がバックにいる? それとも犬のような生物にも使える付与エンチャント? ……いや、しかし……)
そんな事を考えていると、偽ブラックはチャンスと思ったのか、俺の目の前にピタリと立ち止まった。
「……?」
そして、偽ブラックは口をカパッと開き……
口から火の玉を発射した。
――――
「ふぅ……」
あれから5分ほど。ようやく偽ブラックの殺害が成功した。確かにあのスピードと火の玉は普通の人間からしたら脅威だろう。
だが、この俺には反射があるのだ。
火の玉など俺からしたらそこそこの速さのバスケットボールとそう変わらない。スピードは確かに厄介だったが、ブラックほど賢い犬ではなかった。直線的な動きばかりで次に移動する場所が容易に予測する事ができた。
それと気になることがあと1つ。
「これって……」
偽ブラックの首に巻きつけられていた、たったひとつの鉄の首輪。その鉄の首輪には文字が彫られていた。
"i198"
(まぁ、悩んでいても仕方がないか)
家に持ち帰った後、ゆっくりじっくりと考えるとしよう。
「それにしても……ん〜」
この屋敷。あまりにも広すぎる。もう何十分も屋敷の中を破壊しまくっているのにいまだに倒壊する様子すら見せない。かなり丈夫に作られたんだろう。昔の技術と言うのも馬鹿にできないものである。
「何かないか……? 血をばらまくよりももっと手っ取り早く、そして合理的に破壊できる何かが……」
そうやって、腕を組みながらトコトコ歩いていると……
目線より上に、看板らしきものを見つける。それは和とは似合わない形をした、ありふれたものだった。
「ん? ……なんだ、トイレか」
真っ白の看板に男と女のよくあるマーク。和に似合わないその風貌に目線を奪われた。
「トイレか……」
トイレといえばだが、俺は洋式の方が好きだ。洋式を作り上げた人はほんとに尊敬する。あの水を噴射するシステムには本当に驚かされた。名前は知らんが。
(水…………)
「あ……」
瞬間、俺の脳内に走る革新的な考え。自分が天才なのかと勘違いしてしまうほどの圧倒的ひらめき。実行するのに戸惑いはなかった。
「……いけるかも」
――――
「くそっ……」
「まさかi198が……」
「それはそうと、あの設計図はどうなんだ!?」
「防御系のスキルを持った連中に守らせているから問題ない!! それよりも……」
同時刻。ヤクザ側はかなりの窮地に追いやられていた。
「どうするんだ!! あれにはかなりの大金をつぎ込んだんだぞ!!!!」
「どうするもこうするも……」
ヤクザ達は伸太の破壊工作に頭を悩ませている時。
「静かにしろ」
「か、頭……」
頭と呼ばれる男。その顎には髭を蓄え、鋭い目。
ドラマでよく見るヤクザの頭を体現しているような姿をしていた。
「でもよ、頭……このままじゃ本当にお手上げだぜ、あの侵入者の破壊工作は止められねぇし、侵入者自体も相当強いんだ……もうどうしたらいいか……」
「馬鹿野郎。そんなもの、お前らやわしを加えてさらに数を増やして奇襲すればいいだけの話だろ」
「な、なるほど……さすがだぜ頭!!」
「ふん……」
頭は至極単純なことを言っただけなのだが……人は焦ると視野が狭くなる。そんな当たり前の発言でも、とてつもないほどの名案に見えている違いない。
「よし! それじゃあ今の作戦で……」
ヤクザの1人がそう言葉を放った――――
ボコリ。
「……へ?」
瞬間。
屋敷は粉々に吹っ飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます