驚愕

 第二ラウンドがスタートした。なんて言葉を使ったが、俺はここで長々と時間を使っているわけにはいかない。こうしている間にも、後ろからヤクザ達が近づいてきているのだ。止まっている暇は無い。


「さっさとやるか……」


 締めに行こう。


 俺は今一度ダッシュし、残りの3人との距離を詰める。何度も言うが、俺のスキルは2つとも近距離でないとその真価を発揮しない。遠く離れたところからビームを打たれ続けると、致命傷にはなり得ないが面倒だ。 


 なので足早に距離を詰め、短期決戦を仕掛ける。


「なめやがって!!!」


 炎男も俺に呼応する様に走り出そうとする。まだ俺との力量差を理解していないようだ。これだから脳筋は困る。


「……だから負けんだよ」


は炎男が走り出した瞬間、俺は左手に持っていた黒剣を炎男に向かって投げつける。黒剣は放物線を描き、回転しながら炎男に向かって飛んでいく。


「何!!」


 ……だが、そこは歴戦の戦いをくぐり抜けてきたヤクザ。これで剣が刺さってさよならバイバイみたいなことならないのだ。現に炎男も驚いた顔はしても、足を止める事は無い。炎をまとった拳で弾き返せると確信しているのだろう。


(だが、俺はその上を行く!!)


 その程度の策で敵を倒せると思っているほど、俺は生ぬるくない。


「ふっ!」


 俺は炎男の目の前まで迫った黒剣を……消した。


「何っ!?」


 無論、炎男は目の前で消えた黒剣に驚く。どれだけ実践なれしていても、目の前で起きたありえない現象には、多少なりとも反応してしまう。


 そしてそれが仇となる。


「悪いな」


 俺は、炎男が黒剣に注目している間に、炎男の懐まで接近。驚いたことによりできた隙をつき、闘力操作によって高めた右腕を顔面に直撃させた。


 ただ、これで満足してはいけない。この戦いは多対一なのだ。俺が拳を振り抜いた隙を見逃すはずがない。

 そして現に、青白いビームが俺を射貫かんとせまってきていた。

 だがぬるい。生ぬるすぎる。反射のスキルを持っている俺にその攻撃は致命的だ。


 俺は黒剣を消しフリーになった左手を開き、その左手に反射を発動する。


 その左手でビームを弾き返すのだ。


「へ?」


 ビームを出した男は素頓狂な声を上げ、弾き返ってきたビームをその身体の胸に受ける。ビームを出した男はその後何もしゃべらなくなり、重力に任せ、その身を倒した。


「……っ! この……」


「へっ!!」


 最後の1人となったクナイ男。だが、あきらめることなく、けなげに俺に向かってクナイを投げつけ、攻撃した。


 ……その後の事などの言うまでもない。


 まぁ、あえて言うならば……



 頭を木っ端微塵に破壊した……とだけ言っておこう。



 さて、ヤクザ達の攻撃を一旦退けた俺だが、まだまだ安心と言う訳では無い。追っ手だってくるだろうし、俺が破壊している後ろからも爆発を切り抜けてやってくる伏兵がいるかもしれない。


 そんな俺の予感は的中し、10分間、しばらくは目の前に現れるヤクザ達と殺り合う展開となった。


「ふん……」


 だが、それが俺の有効的なダメージになるとは限らない。ヤクザと言う自信からか、直線的かつ愚直な行動が多い。そんなもの反射と闘力操作を使った一発で倒れていく。俺にダメージを与えるやつは今だに現れないのであった。









 ――――









 一方その頃、ヤクザの下っ端たちは。


「このままだと……まずいぞ!」


「頭になんて言われるか……」


「問題ない」


「……はぁ? 問題ないって何が――」


「あの子犬どもが出た」


「!! おお……! と言う事は……」


「そうだ」




「侵入者の死は……逃れられないものとなる」









 ――――









「だいぶ奥まで来たな……」


(そろそろ重要な部屋とかがあってもおかしくないが……)


 かれこれ屋敷に入ってから合計15分ほどが経った。長い時間ではないが、俺の反射により約8割は壊滅したと考えていい。


 何か切り札があるなら、ここら辺で使っておかないと取り返しのつかないことになるはずだが……


(……まぁ、何もないのなら、こちらとしては好都合だ)


 血の出が少なくなった左手の平に黒剣を生み出し切り込みを入れ、破壊活動を再開しようとした時。


「……っ! 誰だ!!!」


 右のふすまの奥から感じる殺気。そちらを振り向いた瞬間。


 ふすまを突き破り、俺を焼き殺さんとばかりにバスケットボールほどの火の玉が目の前まで迫ってきていた。


「こんのっ!!!」


 だが、反射を持つ俺にとって、気づいた時点で不意打ちにも入らない。このままだと直撃するであろう顔に反射を発動し、火の玉を弾き返す。


 弾き帰った火の玉はふすまの奥の部屋に向かい、ついには大爆発した。


「……!!」


 その時、俺の目線の端に飛び散る黒い何かが目に映る。何かはわからないが、それが今回の元凶に間違いなかった。


「どこに!?」


 俺はいないとわかっていながら、条件反射で大爆発したふすまの奥を見る。炎は床に敷かれた畳に燃え移り、炎によって陰陽がつく。その様子はまるでドラマのワンシーンのようだ。


 俺はそれを確認した後、おそらく元凶が居るであろう後ろをゆっくりと振り向く。


 そこには…………


「ブラック……?」


 ブラックによく似た真っ黒の犬が、俺を強く睨み付けていた。



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