闇取引
「さて、と……今日もカップラーメンかな」
金の象像を強奪して3日。俺は我が家でゆっくりと昼食をとっていた。
(いよいよ今日か……)
あの後、我が家に帰還した俺は、すぐさま闇サイトにアクセスし、任務を達成した事をメールで伝えた。そして数分経った後、すぐに返信のメールが届いた。
そこには、任務達成を祝福する文章、そして、報酬と金の象像を交換するときの日時と時間、取引人の特徴、集合場所が書かれていた。
日時は3日後の昼。噴水に集合。胸ポケットからお守りが出ている人物。
……そう、3日後。
つまり、今日は取引当日と言う事だ。
「ごちそうさまっと……」
俺はカップラーメンを食べ終え、昼食を済ます。ブラックは3日前に買った40,000円以上するドッグフードを食べている。人間が100円程度で犬が40,000円の飯とはこれいかに。
今は10月。少し肌寒くなり、シャツなしでは耐えられない。無論、俺が買った古着では、薄着すぎて着れたようなもんじゃない。
と、言う事で…………
「……やっぱりこれがしっくりくる」
懐かしの黒ジャケだ。やはり俺と言えばこれだろう。
黒ジャケ壊れたんじゃないの? と思うかもしれないが、そこは安心と信頼のハカセだ。俺が寝ている間に直してくれていたらしい。2カ月間の特訓の間にも着用し、一緒に汚れてしまったため、3日ぶりの着用と言うわけだ。俺だと思われるかもしれないが、黒ジャケットを着たところで、俺だとは断定できないだろう。
「……くぅ〜久々だなぁ〜」
やはりこれに限る。これ以上に身を引き締める物はない。俺にとっての勝負服。俺のお気に入りだといえよう。
時計を見ると、あと30分で集合時間だ。こういうのは、余裕のあるうちに行っといたほうが得だろう。さっさと噴水に行くとしよう。
そう思い、金の象像が入ったショーケースを持ち上げ、我が家の玄関まで行き、外に出ようとすると……
「ワン!!」
「…………わかったわかった。行こうか」
もはやこれも恒例行事だ。俺が行くとこついていくとこ、絶対にブラックが一緒についてこようとしてくる。500万はあまりにもかさばるため、銀行カードにチャージしに行こうとした時も、カップラーメンを補充しにスーパーに行こうとした時も、意地でも離れようとしないため、結局は許してしまっているが……
まぁ、全くと言っていいほど騒動を起こさないため、この状態が続くのであれば、別にいいと思っている。
こいつもそこそこ有能なのだ。そうゆうスキルを持っているのかと思うほどの鼻の良さ。とゆうか金庫の時に至っては、金の匂いなんて嗅いではいない。いや、過去に嗅いだことがあるのだろうか。
俺はいつも通り、ブラックを外に連れ出す。紐をつけていなくても、そばを離れたりしないので首輪分出費が浮いた。便利。
「うう……やっぱり肌寒いなぁ」
数十年も前は、地球温暖化でまだまだ暖かかったそうだが、今は違う。スキルが発見され、その力が開拓された時代だ。地球温暖化など等の昔に解決されている。火星に移住する計画を立てられていたようだが、しなくてもよくなったわけだ。
と言うわけで、集合場所へ出発した。
――――
「よいしょっと……」
30分後、ついに噴水に到着した俺とブラックは、噴水のそばにあるベンチに腰をおろし、歩いたことによって疲弊した足を癒す。
「キュー」
ブラックはまだまだ元気な様で、俺の周りをぐるぐると回りながら、尻尾を振っている。こんな小さな体の中に、一体どれだけスタミナがあるのだろう。生物の不思議と言うやつか。
「キャウーン、クゥーン」
「おおお〜、よしよし」
ただ座っているだけでも暇なので、ブラックを持ち上げ膝に乗せ、頭を撫でていると……
「……ん?」
通路から男が1人、噴水の近くにやってきた。服装は完全に黒のスーツで統一されており、セットされた髪に不釣り合いなサングラス、白いマスクに……胸ポケットに赤いお守りが入っていた。
(あれだ……!)
間違いない。 あれが今回の取引人に違いない。
そうと決まればすぐにでも行動だ。ブラックをおろし、ベンチを立って黒スーツの下へと急ぐ。黒スーツも俺の行動に気づいたのか、黒スーツからこちらへと近づいてくる。俺と黒スーツの距離はどんどん縮まり、ついに目と鼻の先まで近づいた。
「あの……任務をやらせてもらった物なんですが……」
「おお……! やはり……! 申し遅れました。千斬の取引人です。うちの決まりで名前は申し上げれないのですが……まぁ、気軽に好きな名前で呼んでください。敬語もなしで構いませんよ」
何と言うフレンドリーさだ。闇サイトの取引人とは思えない。コミュ力の高さがうかがえる。
「あ、ああ……それじゃあ……ゴホン……金象像はこのショーケースの中にある。確認してもらって構わないぞ」
俺はそう言って、片手に持っていたショーケースを黒スーツに向かって差し出す。黒スーツは周りを気にしているのか、左右に人がいないことを確認すると、ゆっくりと、まるで割れ物を使うかの様にゆっくりとショーケースの持ち手をつかみ、がちゃりとショーケースのロックを外し、中身を確認する。
「……!! まさか本当に……」
「どうだ? 間違ってはいないと思うんだが……」
間違っていたらとんでもないことだ。報酬がチャラになってしまう。そうなってしまったらブラックのドッグフードは没収だな。
「……いえ。問題ありません。間違いなくこれです……」
黒スーツはかなり驚いているようで、俺に返答しながらも、絶えず金の象像をジッーと見つめている。もしかしたら何度も任務達成の報告のいたずらがあったのかもしれない。またいたずらだと思っていたのだろう。
「じゃあ、報酬のほうは……」
「はい。もちろんお支払いさせて貰います。現金でも良いのですが……カードのほうにチャージさせてもらうのも可能です。いかがいたしましょうか」
なるほど、カードでもokなのか。ならば、俺の500万の銀行カードでも可能だろうか。説明が遅れていたが、今の時代は直接銀行からカードでお金を落とすことができる。カードを1枚持っているだけで、わざわざ銀行に行かずともお金を銀行から引き出せると言うわけだ。
「銀行カードなんだけど……大丈夫かな?」
やばい。一応タメ口で言ってみたけど、相当恥ずい。今までのタメ口よりダントツでこの一言はキモすぎる。言ってから後悔すると言う奴だ。
「いえいえ、少しカードを見せてもらえれば、十分可能ですよ」
そう言われた俺は、何の警戒もなく銀行カードを差し出す。黒スーツはカードを受け取ると、スマートフォンを取り出し、何かの番号を打ち込んでいく。
しばらくすると、ある程度の作業が終わったのか、カード俺俺に返してきた。
「はい。これにて完了です。銀行でちゃんと振り込まれているかご確認ください」
「……金とってないだろうな?」
「いやいや、そんなことするわけないでしょ? 金の象像を奪えるほどの実力者であるあなたを敵に回す方が怖いですよ」
「……そんなもんか」
「そんなもんです」
そう言うと、お互いに別れの言葉を告げ、噴水の元を離れていった。
――――
「……まじで入ってた」
あの後、俺は帰り道に銀行に入り、残高のチェックをしてみたが、しっかりと300万が振り込まれていた。
ついにこのカードは500万ではなく、推定800万の超大金カードなったわけだ。
「なんだか怖くなってきたな……」
銀行から今月分のお金を取り出し、財布に詰め込んだ後、満を侍して外に出た。銀行カードは俺の右腕に握り締められている。なんだか怖くなってしまったので、財布の中に入れるのも怖くなってしまったと言うわけだ。
(このまま家に帰ろう……)
そうやって、のそのそと家に帰ろうとして歩き始めた。
「…………見つけましたよ」
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