黒との戦闘
「ぐぐぐっ……」
「…………!」
拳と拳の衝突。地面の芝は拳圧により舞い散り、爆風が吹き荒れる。俺は反射を使い、拳をぶつけたのだが……
(こいつ……! 俺の拳を……!)
反射を使っている以上、8割方勝てる勝負。そう意気込んでいた俺だが、結果は違った。
相殺される拳。反射によって自分自身の力が跳ね返ってきているのに、黒の人物は俺の攻撃を拳で相殺してきた。
「…………ッ!!」
俺が驚愕しているのもつかの間、拳と拳がぶつかり合ってコンマ数秒。黒の人物は残ったもう片方の腕を使い、俺に向かって殴りかかってくる。
「!! このッ……」
俺はそれに対し、拳に使っている反射を解除し、反射を足に使うことで後ろに飛び跳ね、回避することに成功する。
「っぶね……!」
回避できたと思った……その時だった。
体が跳ねた。
「……が?」
俺はそのまま数メートル吹っ飛び、庭の壁に激突する。
「いっ……てぇ……」
なぜだ。なぜだ。どうして。頭の中に大量の疑問符が浮かぶと同時に、腹に激痛が走る。
反射は使っていないはずだ。黒の人物のパンチだってかわした。飛び道具だって見当たらなかった。
なのに数メートル吹っ飛ぶほどの衝撃。このダメージ。
明らかに不自然だ。スキルを使ったに違いない。
俺はゆっくりと立ち上がり、黒の人物を見据える。もちろん黒の人物の情報は何一つない。スキルもさっきの動作1つでは断定できない。ハカセならば、ある程度予想がついたかもしれないが……ここにハカセはいない。自分で考えるしかないのだ。
(……そういえば、ブラックは?)
一連の俺たちの行動に、まき込まれてはいないだろうか。確かにブラックは成り行きで飼ってしまった何の思い入れもない犬だが、アレは邪魔な命ではない。少しでも長く生きて欲しい。
俺が周りをチェックすると、ブラックは金庫に戻り、こちらをじっと見つめていた。自分は邪魔になってしまうと理解したのだろう。何度も言うが、本当に賢い犬だ。
(よかった……)
相手の情報が何もない以上、戦いの中で仮説を立て、それを信じて戦うしかない。
俺はそう考え、ゆっくりと立ち上がりながら脳をフル回転。仮説を考えて…………
「……なっ!?」
「…………」
考えていこうとしたその時、黒の人物がすぐそばににいた。
目の前に迫る拳、体が叫ぶ危険信号。2ヶ月と言う休止期間の間で忘れていた。戦闘の中、大きな隙を見せることが、どれだけ危険かと言うことが。敵から視線を外すことによる相手に及ぶアドバンテージを。2ヶ月の間で強くはなっても、重要な戦闘の勘が劣化していたのだ。
すでにこの距離、人力では回避できないデッドラインに突入している。ノーダメージで事なきを得るのは不可能。
(何とかダメージの軽減だけでも……!)
だが、回避することはできなくとも、威力を軽減することはできる。頭を後ろにそらすだけ。これだけで、ダメージをいくばくか軽減することができる。
しかし、それは相手が常人であればの話。
「ぐぁっ……がっ!!!!!」
ダメージを軽減したのにもかかわらず、3メートル近くブットぶ体。地球が一周し、目線がひっくり返る。
「ぐぎっ……が……」
(こいつ……! やっぱりただもんじゃない!! 目線が相手の拳8割がた埋まってたから、あまりよく見えなかったが……おそらく、頭を後ろにそらした俺に対し、1歩踏み込んで腕を押し込んできやがった……)
そんな技術、そこらの人間には真似できない。最もできたとしても、一瞬で使う判断をとることができる人間などごく少数。間違いなく戦闘慣れしている。
(あ〜……大阪にきてもこれかよ……運ねぇな……全く……)
今のうちに鈍った勘を直すのもアリかと思ったが、それはある程度のレベルの敵に対しての話だ。こんな高レベルの敵に対して言っているわけではない。初っ端からゲームの負けイベントに直面しているようなもんだ。
(考えるしかないな……)
しかし、いくら難易度が高いといっても、これはRPGでは無い。脳をフル回転させ、回答を導き出さなくては。
俺が考えようとすると、そうはさせないと言わんばかりに黒の人物が接近し、攻撃を仕掛けてくる。
黒の人物と俺の距離は2メートル。もともとそこまで長い距離ではないが、目を見張るべきスピードだ。その速度のまま右腕を使って殴りかかってくる。
……だが。
「……!」
「ふぅーー……」
対応できない速度ではない。むしろ、ある程度余裕を持って対処できるレベルだ。さらに、俺には反射と言う手段もあるのだ。もともと近距離が強かったため、それがさらに強くなればどうなるのかはお察しだろう。
案の定、向かってきた右腕はさくっと捕む事に成功し、黒の人物の腹に膝蹴りを打ち込む。
「……ッ!! ガ……」
そして膝蹴りを入れた後、俺から体を離し、距離を取る。
「……ッ! ッ!!」
黒の人物は、距離を取られるのはまずいと思ったのか、まだ痛みが残っているに違いない体を無理矢理動かし、異様に焦りながら攻撃を加えようとしてくる。
「……ッ! ッ!! ……ッ!!!」
(こいつ……)
無理矢理痛みをこらえ、体動かしているからか知らないが、さっきまでと動きが明らかに鈍い。動きの挙動が見え見えだ。明らかに勝負を焦っている。
動きの挙動が見える相手の攻撃など、今の俺ならば回避する事は動作もない。
回避しながらも、しっかりと頭を回し、黒の人物の分析に考えを向ける。
(最初にもらった一発……何も見えなかったのに攻撃された。何かが目に見えないほど高速で飛んできたか、スキルによる摩訶不思議な力で攻撃されたかの2択だが……あんな攻撃があるなら、まず間違いなく距離を取る。距離を取らないと言う事は、条件付きのスキルの可能性が極めて高い……)
あの見えない攻撃は、条件付きのスキルによる攻撃と仮説を立てる事ができた。
そしてそれは、俺に接近してくることに関係がある。
ならば、どんとこいだ。接近戦は俺の得意分野。専門職と言っていい。もはや俺に接近戦で勝てる奴の方が少ない自負があるレベルだ。
そして、思った通り、黒の人物の攻撃を右へ左へとまるで未来を読んでいるかのように避け続ける。
そして……
「甘い」
「……ッ!!」
隙をつき、黒の人物の胸に反射を使った左腕を突き込む。少し柔らかい感触を感じたところを見るに、胸周りに防弾チョッキでも巻いていたようだが、反射を込めた一撃だ。今の一撃で防弾チョッキは破裂し、その奥の黒の人物の体にも、多大なダメージが与えられただろう。
「……ッウ……」
(ひるんだ)
口元を明らかに歪め、苦悶の表情を向け、数秒の隙が生まれる。その隙が勝負を決める決定打になった。
その隙を利用し、右腕で首を思いっきり掴み、地面に思いっきり叩きつける。
さらにそれだけではない。仰向けになった体に向かって、みぞおちに左腕で反射を使った拳を叩きつける。
「うぐっ……あ……」
「あばよ」
そして俺は、すぐさま黒の人物から手を離し、そのままブラックがいる倉庫に向かってダッシュ。ブラックと金の象像を手に入れ、すぐさまジャンピング。近くにあったビルに着地し、逃げ切る事に成功した。
――――
逃げて数分。俺はブラックと金の象像を抱え、ビルとビルの間を移動していた。
「追っては来ないな……」
まぁそれも当然だろう。あれだけきれいにみぞおちに攻撃を加えたのだ。しばらくは痛みで動けないだろう。
さすがに今は動けるまで回復しているだろうが、その時には俺の姿はまるで見えない。追って来るのは不可能に近いだろう。
つまり、俺は任務の達成に成功したのだ。
「ふぅ……」
俺はしばらくの間、任務の達成感と、安堵感を味わった後。
「……帰ったら風呂入ろう」
家に帰った後、1番最初にやることを決めた。
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