大阪編 第八章 進展
死ぬほど疲れた
とある道路を走る1台のタクシー。それは1つぽつんとありながらも、目的地へ向かって力強く前に進んでいた。
「あのーお客さん? もうすぐつきますよー」
運転手の言葉を聞き、俺は車特有の振動に揺られ、眠くなった体を持ち上げる。長時間の座り込みにより体が硬くなり、ポキポキと軽快な音が鳴り響く。
「それにしてもお客さん……本当にこんな場所でよかったんで?」
「ああ、心配ありませんよ。むしろここがいいんです」
そう言って、俺は運転手に運転の分の金を支払う。ここまでかなりの遠出だったので、そこそこかかってしまった。
「ふう……さて、と……」
俺はタクシーが去った後、目の前の大きな門に向き直る。
さて、俺が今どこにいるのか。その答えは……
もちろん、大阪の国境だ。
――――
「大阪……?」
俺はハカセに向かって、少し疑心を持った返しをする。それも当然だ。大阪といえば、東京からかなりの距離がある。遠ければ遠いほど、東京兵士や神奈川兵士に見つかる可能性が低いのは理解できるが、それにしても、最大派閥の1つである大阪派閥とは。どうしてそこのチョイスなのかと言う疑問が浮かぶ。
「ワシが大阪を進める理由は2つじゃ。まず1つは、東京派閥からの遠さ、そしてもう一つが、大阪と東京の仲の悪さ……これが主な理由じゃ」
「……大阪と東京って仲悪いのか?」
「うむ、すこぶる悪い。10年ほど前に大阪と東京間の大戦争である『月・末・戦争』があったからな……その時から、その2つの最大派閥の中は激悪じゃ……つまり、東京派閥はめったに入ってこれん。これが最大の理由と言っていいじゃろう」
(………なるほど。大阪を拠点にすれば、めったなことがない限り、安全が約束されるってことか……)
それは魅力的だ。確かに遠く、それなりの日にちがかかるだろうが、その分、得られるメリットは大きい。
「だけどさ。大阪での資金とか、大阪に行くまでの道筋とかはどうするんだよ……悪いが俺、金持ってないぞ」
「問題ない。道筋に関しては、オヌシの反射を使えば事足りる。疲れたらタクシーでも使えばよかろう……それに、資金に関してもワシがなんとかする。500万もあれば問題ないじゃろ?」
「……まじ?」
さらっととんでもない額が飛び出したぞ。500万?この覆面じいさんどんだけ金持ってんだ? 情報屋ってそんなに儲かるのか。俺の第一志望、情報屋にしようか。
(まぁ……そこまで手厚くしてくれるなら、問題ないかな……)
「わかった……行くよ」
「ちなみに……ワシは同行できんぞ? ワシの求めているものは、大阪にはないからのう。できるのはあくまで援助じゃ」
「……そうか」
正直、ハカセが来てくれた方が安心だったのだが……ハカセにも事情や目標があるのだろう。それを俺が咎めてはならない。ハカセも今まで、俺の目標の手助けをしてくれたのだから、こちらもそれに報いねば。
こんな経緯で、俺の大阪行きが決定した。
――――
「よっ、と…………」
そんなこんなで今現在。大阪の国境の間にある大きな門。大阪の顔、通称"フェイスゲート"の前にいる。フェイスゲートはかなりの大きさで、高さにして50メートル近くはあるだろう。
(まっ……どんだけ高くても、関係ないがね……)
さて、急だが、俺がここにたどり着くまでに、どれだけの日数を重ねたのか。もし俺の心の声を聞いている人がいるのなら、気になるのはそこだろう。
どれだけかと言うと……
2ヶ月。
(2ヶ月かかったわ!! うっそだろまじで!? ドンダケ遠回りしたと思ってんだ!!!! まともに風呂も入れねぇしよォ!!!!)
なぜ、ここまで時間がかかったのか。それは、憎き東京に原因がある。
2ヶ月前、東京と神奈川は同盟を結んだ。2つの最大派閥が手を組む。敵対している派閥にとって、近くにある派閥にとって、ここまで怖い事はないだろう。それにより、国境の派閥間の通路が厳重化され、中には交通禁止……すなわち、鎖国している派閥もあった。
道中、大阪派閥の傘下に入っている派閥にも、無論通ったが、大元の大阪への入り口はすべて閉ざされており、東京•神奈川同盟に対して、かなり強い警戒心を抱いているのが分かった。
それらによって俺は、世紀の大回りをすることになり、当初1週間程度で着く予定だった大阪には、なんと2ヶ月の月日を費やすこととなった。
世紀の大誤算である。
「だが……」
ここまで来てしまえばもう関係ない。足に反射を使用し、一気にフェイスゲートを乗り越えよう。
俺は勢いのままに、バッと高く跳躍する。伊達に2ヶ月かかっていない。空中での移動も前と比べものにならないほどスムーズだ。
今までの苦労はどこへやら、軽々とフェイスゲートを乗り越えてしまった。
「ちぇっ……こんなもんかい。新技を使うまでもなかったな」
そして前に進む。きたるべき新たな舞台、大阪派閥へと。
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