戦線離脱

「ぐあっ……!」


 撃ち抜かれたことによる衝撃で、体が地面におちる。何に撃ち抜かれたのかわからなかったが、全く目に見えなかった事から、銃弾などの可能性が高い。


「ぐっ……! どこから……!」


 俺は、血がダラダラと流れる腕を引きずりつつ、銃弾の様なものが発射されたであろう方角を見る。

 しっかりと見据えるが、人の姿1人見えないことから、かなり遠くから撃たれれたものと思われる。


「あ……せ、んぱ……」


 まずい。実にまずいぞ。もともと遠距離の敵に対して、俺のスキルは有利ではない。だが、俺から見えない遠さのレベルから攻撃してくる敵は初めてだ。実践経験もなければ対策もない。今すぐ身を隠さなければ格好の的だ。


「どこか……何とかして……」


 俺は身をむくりと起こし、走って移動しようとする。 


 ……が。


(あ……足、が……)


 俺の体も、とっくの昔に限界を迎えていた。あばらは折れ、内臓に骨が刺さり、腕の肉はえぐれ、片腕には穴が開いている。高校生が受けていい怪我を完璧に超越していた。

 もはや気絶していてもおかしくないレベル。だが、まだ死ぬわけにはいかない。まだ復讐していない。目標への執念だけが、俺の精神をつなぎとめていた。


「ふぅーぐ……ぎぃ、がああぁ……」


 まだ無傷な足を使い、体を引きずりながら、キャンプ場の出口に急ぐ。壊れた建物の瓦礫等にひそめばやり過ごせるかもしれない。一末の希望を胸に、ゆっくりとゆっくりと、出口に向かっていく。


「ぐ、があ……だあがぁぁ……」


 ズルズルと体を引きずり、前に進んでいると……


『伸太! 生きておるか!?』


「あ? ……は、かせか……」


 よかった。逃走経路は何とか確保できたようだ。


『何と言う……まっておれ、すぐ向かう』


 どうやらスチールアイで、俺の姿を目にした様だ。

 ともかく、俺が生きていなければお話にならない。未来よりまずは今を生きなくては。

 そう思いながら体を引きずっていると、俺の顔の真横に何かが飛んでくる。どうやらさっきのと同じようで、少なくとも、威力が俺を助けてくれるようなものではなかった。


「あっ、ぶねぇ……」


 どうやら体を横たわらせ的を絞ったことによって、的を絞れたらしい。直撃していれば、100%死んでいた事だろう。


 そんな事を考えていると、車のブレーキ特有の甲高い摩擦音が聞こえる。


「おい! 伸太!」


 ハカセの声が聞こえる。老人特有の低めの声だ。声が聞こえた方を見ると、ハカセは走ってこちらに向かってくる。


 ……だめだ。伝えなければ。こっちに来ればすぐにでも攻撃される。ハカセの様な老人が受ければ、一撃瀕死は逃れられない。


「ちっ……これは立てんな……担ぐぞ、すぐに車に運ぶ」


「は、はかせ……だ、め……だ」


 そのまま、俺はハカセに担がれる。

 ああ、終わった。ハカセが撃たれるのは必定。立っていることにより、当たりやすくもなってしまっている。


(……ん?)


「まったく……ずたずたになりおって……」


(…………ん?)


「ほら、車の後ろに降ろすぞ」


(…………………………んんん?)


 そうやって車の後部座席? のような所に降ろされる。とゆうかリムジンじゃないか。どこで手に入れた。


 ……というか、何故撃たれなかった?


(……もしかして)


 ハカセが誰だかわからなかった。その可能性があるかもしれない。こちらからすれば味方だが、相手からすれば、ハカセが敵なのか味方なのかというのはわからない。もしかしたら脅されていると思ったのかも。


(……なるほど、だとしたら、ハカセが来たタイミングは相当よかったのかもしれないな)


 少しすると、車内特有の揺れを感じる。リムジンが出発したようだ。


(……あ)


 そして、疲れた状態で車に乗ると起こる現象。皆さんいちどは体験したことのある現象。車の揺れによる眠気が発動する。


(あ……ねむ……)


 だが、揺れによる眠気は、しばらくしないと起こらないものだ。


 ……あれ? これって気絶じゃね?









 ――――









「はぁ……ようやく一段落……といった感じかの」


 ワシはほっと一息つき、リムジンを運転する。もちろん、伸太には、包帯を巻くなどの応急処置を施してある。ワシらは逃亡中の身で、安全運転など心がけるはずがない。常にフルスロットル。常にアクセルを踏んだ状態だ。


「この際、周りからの視線など考えていられん……!」


 直ぐに伸太を回復させてやるためにも、時間をかけていられない。周りに不自然に見られようと、すぐにでも東京に戻り、伸太を治療してやらねば。


 リスクはあるが、致し方がない。


 それにしても……


(やはりいない……か)


 神奈川にも"彼女"はいなかった。元々東京本部にいた"彼女"だが、東京本部にはいなかったことを考えれば、神奈川にいる可能性が高いと踏んだのだ。まぁ……案の定いなかったが。会場しか調べていないと言う事もあり、最初から望み薄だったので、しょうがないと言えばしょうがないだろう。神奈川本部自体はまだ捜索してないので、まだまだ神奈川にいる可能性も捨てきれない。


(むぅ……)


 そう考えていると、ある言葉が頭に浮かぶ。


(憎悪は闇になる……か)


 ワシが異能大臣に言われた一言だ。伸太に言っといてくれとお願いされたが、あれはどういう意味なのか。概念的なことなのか、それとも……本当に"闇"になるのか。

 はたまた、"彼女"につながる何かかもしれない。謎は深まるばかりだ。


(だが、それは伸太が生きておらんと話にならん)


 今は東京に戻るのが最優先。とにかく任務を完了せねば。






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