糸口探し
痛い。腹部への痛みを感じる。どんなものでも慣れれば感じなくなると言うが、痛みだけはどうにもなれることができない。
あのまま俺はさらに大きく吹き飛び、キャンプ場の木へ激突。後ろが木だったおかげでギリギリ生きているが、後ろがコンクリートや鉄でできたビルだったら即死だっただろう。
現に後ではキャンプ場の外にあったビルが原型を留めずボロボロになっており、さっきのキックとパンチでキャンプ場の周りの建物は残骸と化している。
「――ほう」
「これでもまだ……膝をつきませんか」
袖女がぽろっと言葉をこぼす。そう、俺はまだ、自分の体の足の裏で、しっかりと大地を踏みしめていた。だが、もちろん何のダメージもなしと言うわけではない。
(……折れたか)
「ガフッ……」
口から血が飛び出る。血を吐くときはどんな感覚なのかと思った時があるが、ゲロを出す時のような、気持ち悪さの中にある快感もなく、体の中から無理矢理ヒリだしたような感覚だ。口から血が出ると言う事は、折れた肋骨が肺にでも刺さったか。
致命的。何度でも言うが、ここまでのダメージは戦闘中において致命的だ。ついでに舌も噛んでしまった。ボクシングの選手がマウスピースを口にはめる理由がよくわかる。
「驚きましたか……?これが私の本当の必勝パターンですよ」
「…………」
言葉が出ない。そもそもこの勝負は、8割がた俺が勝つと予想していた。理由は単純、俺は袖女の空想を使ってトレーニングしてきたからである。あの時使ってきた技、フットワーク、体の動きを隅々まで思い出して分析。体の動きに関しては、袖女の動きがそもそも格闘技の基本に沿った先生のような動きだったので、容易に分析することができた。それに比べ、袖女からすれば、俺などただの犯罪者。俺に対しての対策などする必要はない。力の差があっても対策力でカバーできる……そう思っていた。
……しかし、そこに新技の登場。オーラキックに予備動作なしのオーラナックル。
そもそも今回の勝負、こちらが圧倒的に情報量が多かったのだ。対策プリントを自分だけ大量にもらうようなもの……だが、本番前に前もって情報としてもらってなかった動きが現れたのだ。
テスト中に、勉強したことないような問題が現れる様な感覚。もともとあったリードが帳消しになるような衝撃。
どちらにも驚かされたが、1番驚かされたのは後者の方だ。オーラナックルが予備動作無しで使えるのならば、そもそも前の戦いのタイミングでこれを使えば一瞬でけりがついていた。
ならばなぜ今使えるのか……求められる答えは1つ。1ヵ月の間に身に付けた。これに間違いない。
だが、今日の戦闘では、序盤、今回も正拳突きの構えをとっていた。
つまり…………予備動作無しのオーラナックルを放つには何かしらの条件が必要であり、序盤にはその条件が達成できず、俺が近づいてしばらくした後、その条件が達成されたと言う事だ。しばらくはその仮説を信じて戦っていくしか無い。
「ふふふ……疲れているのならば、こちらで良いホテルを紹介しますよ?」
「……きっとそこは、窓が鉄格子でできてるんだろうなぁ〜」
「あら? よくわかりましたね……まぁ、いやでも連れて行くんですけど」
そして、あの2つの技は、この戦いの中で攻略しなくては。
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