必勝パターン

「……大きく出たものですね」


「まぁな」


 そんなことを言いながらも、俺はきっちりと袖女から視線を離さず常に観察し続ける。少しでも目を離してしまえば何かしらのアクションを起こされることは必定。

 だからここは観察する。俺のイメージでも何でもない、実体のある本物の袖女を。


 ……と、ここであることに気づく。


「……ん?」


(袖女の視線が変わった……?)


 どちらかと言うと、俺を見つつもちらちらとバレないように見ようとしている感じ。視線からして俺の左側だろうか。

 すると、俺にとって根本的なあることを思い出す。


(……忘れてた)


「……おーいハカセー居るかー?」


「チッ……ペッペッ、マスクの下から砂が入ってしもうたわ……んで?なんじゃ? ……争い事なら、ワシはオヌシらについていけんぞ」


「んなこと頼まねえよ……ほら、俺の左、左」


「ん? ……ああ、そういうことか」


 そう言って、残り1個のスチールアイを使い……俺の落としたウルトロンを運ぶ。俺は袖女から視線をはずすことができないので、どんな遊び方をしているのかわからないがごろごろと転がっていく様な音から、ちゃんと運んでくれているのがわかる。


「……おいー伸太ーもう運び終えたぞー」


「サンキュー、ハカセ」


 袖女は自分の狙いが言われたことに腹が立ったのか、苦虫を噛み潰したような表情でこちらを見ていた。


「おいおい、黒のポーンともあろうお方がなんて表情をしているんだ? しかも、敵を前にしてその敵に集中しないとはね〜、神奈川とは、そんな奴でも上位になれるようなところなのか?」


「……ふん、むしろ助かりましたよ。戦闘中に奪うのではなく、あなたを殺し、あのペストマスクさんを捕まえてからウルトロンを奪う……よっぽど単純になりました」


「……これで、全力であなたに集中できる」


「女に集中してもらえるとは……うれしいね」


 すると袖女はすぐさま正拳突きの構えを取る。そこにはもはや手抜きは感じられず、絶対に仕留めると言う意思が強く感じられる。


「……オーラッ!!」


 袖女が拳を振りかぶる瞬間、普通ならば横に飛んだり、後ろに下がったりしようとするだろう。だが、それは一般的な平凡の動きだ。そんな行動をとるやつなんて袖女も見た事あるに決まっている。


 ……ならば、あえて……前に突っ込む!!


 俺は足に反射を使い、袖女に向かって突っ走る。


「!?………パン」


 袖女も多少驚いたようで、一瞬動揺の色が見てとれた。動揺の色が見えたと言う事は、同時に袖女はこの行動の意図が理解できていないと言う事だ。

 そうであって欲しい。そうであってないと困る。でなければこの行動の意味がない。

 一見、捨て身のような行動。だが、俺がそんな意味もなく突っ込むわけがないだろう。

 俺と袖女の距離が半分まで来たところで遂に袖女がパンチを振り切る。


「チッ!!!」


 その瞬間、俺は体に腕を巻き付け、闘力操作を行う。もちろん強化するのは全身。特に腕には特に強力な肉体強化をかける。そしてついに、その一撃が俺の腹にめがけて叩き込まれる。


 ……その時、俺はある疑惑を確信へと変えた。


(……やっぱりか)


 さらに俺は、自分が思い描いていた理想の展開へと突入する。


「なんで……」


「なんで吹っ飛ばないんですかっ!!」


 そう……吹っ飛ばない。通常、生き物と言うのはその体が耐えられない攻撃をもらうと、後ろに吹っ飛んでしまうものだ。


 それは直す直さないではなく、そーゆーものなのである。


 漫画でよくある、主人公が攻撃をくらったのに!!みたいな展開は、そもそもその主人公がその攻撃を耐えられる体にあっただけであって、直せたわけではない。


 ……ならば、なぜ俺の体がオーラナックルをくらっても吹っ飛ばなかったか。それは単純に、突っ込む直前のことにある。

 俺はもともと、ジェット機並みの速度を出せる状態から、"真正面"に攻撃を受けたのだ。横から攻撃を受けたならともかく、そんな状態で真っ正面から攻撃を受けるとどうなるか。答えはまた単純、俺を動かそうとするエネルギーとオーラナックルによって作られたエネルギーが相殺するのである。さらにその際、体が2つのエネルギーが衝突する負担に耐えられる様に全身に闘力操作を注ぐことで、ノーリスクハイリターンで俺の得意な接近戦に持ち込むことができるのだ。


「ほらほら……もう近付いているぞ? いいのか?」

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