世にはびこるエゴを持つ方々
「なんだ!?」
「一体何がっ……!」
周りが驚愕する中、俺のテンションはフルマックスだ。
ジャケットをまるでマントのようにたなびかせ、ストンと会場に着地する。
「……ちぃ! お前たち! あの不届き者を捕まえろ!!」
リーダーと思わしき人物から、俺を確保しようとする命令が下る。
その命令のままに、周りの警備隊らしき人物たちが俺を確保しようとして迫ってくる。
(……馬鹿かよ)
だが、今更ろくに実践も積んだことがなさそうな警備員なんぞに負ける俺ではない。
ひらりひらりと煽るような表情で警備員をかわしていく。警備員たちはだんだんと頭にき始めた様で、ふぅふぅと息を荒らげながら、怒ってますよと言わんばかりの表情で睨んでくる。
(……ほんと簡単だし……こういう奴らって無能なのな)
気づいていない様だが、こいつらが俺の相手ばかりしているせいで、肝心の主戦力であるチェス隊や東京の高ランクスキル保持者たちがろくにうごけていない。
攻撃を放ったとしても、警備員を巻き込んでしまうため、手が出せないのだ。
そこに気づいた俺は、あえてこの警備員たちを倒さず、常に俺の周りに置くことで、俺を捕まえる絶好の機会を封じているのだ。
「おい! さがれ!! 聞いているのか!! おい!」
後ろの指揮官らしき女が叫ぶが、俺の周りにいる警備員たちはそんなもの気にもせず、俺に向かって何度も何度も殴りかかる。俺にかなりの苛立ちを覚えているようで、周りのことが見えていない様だ。
……いける。
こんなチャンスめったにない。敵の本拠地に居ながら、敵に攻撃されないこの状況。つかまねばならない。
警備員たちの動きがかなり鈍ってきた。単純な体力の低下だろう。
もうすぐすれば、この警備員たちが動かなくなったタイミングでもう一度空へと飛べる。
少しでも隙があれば、俺のジェット機並みの速度で逃げ切ることが可能だろう。
つまり、飛び立つことができればチェックメイト、確定演出である。
数十秒後、警備員たちの息が上がり、ほとんど動かない状況になってきた。
(そろそろか……)
ここからすぐに脱出だ。
足に反射を使い、空に飛び立とうとしたその時。
「……はぁい、ちょっと失礼するよー!」
「なっ…………に?」
腹に感じた強い衝撃。その衝撃のままに後ろへ吹っ飛んでいく。
(まずい!!)
このまま壁に叩きつけられれば、受ける衝撃とダメージは腹に感じた衝撃の比ではない。
足から背中に反射の力をシフトチェンジし、ホバリングのように壁に当たらず衝撃を受け止めきれた。
(この女……)
俺を吹っ飛ばしたのは女だった。女と言う事実から、神奈川兵士であると言うことがわかる。
おそらく……
(チェス隊……!!)
俺側からすれば……ついにきたかという感じだ。
身長160前後の活発そうな女。そこからはあの幼なじみを連想させるが、あいつとは違い髪の毛が完全に青のため、さらに明るく見えた。
「……ついにチェス隊のお出ましか?」
「おっ! よくわかったね? そう! 私こそがチェス隊! 黒のビショップ! 旋木天子さんだよ!」
予想通り、チェス隊だった様だ。
しかも黒のビショップ。チェス隊の中でも高位の存在。
神奈川の本気、ガチの主戦力。
……だが、本名まで言うか……よほどの自信家か、それともただの阿保か……いや、偽装と言う可能性も……
……ともかく、こんなくだらないことを考えている時間はない。チェス隊が乱入してきた以上、さっさと上に開けた穴から退散しなくては。
チラリと上に開いた穴を見た。
「悪いけど……逃がさないよ?」
その時、目と鼻の先に奴がいた。
「ぐはっ……!!!」
俺は腹にさらに一撃をもらったようで、腹に強い衝撃を感じる。
痛みをぐっとこらえながら目線を下にすると、案の定、腹に拳がつき込まれていた。
(見えなかった……何も……反応することすら……)
目線を外していたとは言え、恐るべきスピードだ。
反射を腹に使う暇すらなく、一撃をもらってしまった。
ウルトロンを奪ったら、隙を見計らって逃げる算段だったが……
(この女、おそらく俺より速い……!!)
今の流れから見て、俺より速いのはほぼ明確だろう。
と言う事は、穴から逃げ出しても追いつかれる可能性が高い。
「……っ! いつまでひっついてんだよ!」
俺は天子と名乗る女に向かって拳を繰り出した。
狙うは頭の付け根。脳を揺らして脳震盪を起こし、よろめいた所で逃げきる作戦だ。
「おっと」
だが、黒のビショップは難なくそれを交わし、俺から離れた。
「くっそ……」
今までと違い、何もかもがたらない戦闘。
相手のスキル、相手のバトルスタンス、相手の数……何一つないのに、黒のビショップに勝つなど夢のまた夢であった。
(……どうすれば……どうすれば……)
この場を切り抜けられるんだ?
『……伸太!! 何をぼーっとしておる!!』
『敵は……1人ではないんじゃぞ!!!!』
その瞬間、俺に向かって無数の攻撃が飛んできた。
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