ここからが本番
『上から……?』
ハカセは怪訝そうに言葉を放つ。
さすがに俺の一言だけでは、俺の意図はわからない様だ。
「……なぁ、ハカセ。俺たちは潜入って言う言葉に固執しすぎてたんだよ……もっとシンプル……もっと単純でいいんだ」
『単純……? ……シンプル……?』
そう、何も考えなくていい。男ならば誰しもが一番最初に考えるような、ド派手で爽快な策。
「次にウルトロンを奪えるタイミングってどこだと思う?」
『……何を言っているんじゃ? もはや、ウルトロンを奪えるタイミングは存在しない。今、ウルトロンはほぼ確実に会場にあるじゃろう……もちろん、チェス隊も一緒にな』
「……じゃあ聞くけど……会場にある間、ウルトロンはどうなってるんだ?」
『……さっきから何を言っているんじゃ? ……おそらく、部屋で見た金庫と同じ物に保管されておるじゃろう。念には念を入れて損はないからな』
さすがハカセだ。俺の想定した答えをやすやすと答えてくれる。
「……じゃあ、そのウルトロンが外に露呈するタイミングは?」
『……は? そんなタイミングあるわけがなかろう。そんなタイミングあったら、とっくに気づいて…………いや、待てよ?』
ハカセもついに気づいたようだ。
そう、ある。あるのだ。唯一のタイミングが、露呈するタイミングが。
『伸太、オヌシ……』
「もうこれしかないんだ。ハカセ。このタイミングしかない……やるしかないんだ」
『…………』
「それに……もともと好きだったんだよ」
「こんなふうにど派手にやるのはな」
俺はすぐに穴に戻っていく。俺は出口には出ず、半分ぐらいのところに来たら反射を使い無理矢理穴を開けた。外に出ると、通行人や車から、好奇の目線やスマホを取り出す人間も現れた。
だが、もはやそんな事はどうでもいい。俺がやる事は今1つしかない。
…………黒マスクしといて本当に良かった。
すべてを無視して反射を使い、高く跳躍する。
とにかく空へ、高く……さらに高く!
「……っ!」
空気が肌に伝わる。その冷たさから、今俺がどのくらいの高さにいるのかと言うことを強く実感した。
米粒のように小さくなっていく人たち。模型のように見えてくるビル街。天高く飛べば飛ぶほど、まるで世界を支配したかのような全能感に駆られる。
「来たぜ……ハカセ!!」
体中を駆け巡る全能感の所為か、テンションが上がり、大声で叫んでしまう。
今なら何でもできそうな気がする。
『……やるのか? 本当に』
俺とは対照的に、ハカセはいたって冷静だった。
『……このままいけば、ウルトロンは奪えたとしても……これからどうなっていくか……』
まさに今、俺とハカセは表裏一体なのだ。
これからのことを考えるハカセと今を切り抜ける事しか考えない俺。ハカセが渋るのも当然のことだった。
だが、俺に迷いはなかった。
「今しかねえんだよ!!!!」
『……!』
「もし! 俺の進む先が破滅だったとしても!! 地獄だったとしても!! 俺は戦うしかないんだッ!!」
「これから地獄に落ちたとしても……何も成せないまま、あの頃みたいな時間を過ごしている方が……よっぽど嫌だ!!」
『……そうか』
「……それに、俺をここまで案内したのはハカセだろ? なら……これからも! 地獄の案内人になってもらうからな!!!」
『……ああ!』
ハカセの意思も固まったようだ。
……これからも俺は迷っていくだろう。後悔していくであろう。
だが。
今だけはもう……迷わない。
『……今じゃ!!』
「……さあ」
「行くぞ!!!!」
俺は巨大化したスチールアイを使い、一気に会場に向かって急降下する。
ウルトロンを奪うタイミング。そんなものはないと誰しもが思うだろう。
だが、たった1つだけあるのだ。ウルトロンが金庫の中から取り出され、露呈される唯一のタイミング。
それは…………
神奈川派閥から東京派閥にウルトロンが渡る、そのタイミングのみ!!
マスコミの前で取引を行う場合、その効果を十分に発揮するためには、マスコミの前で見せながら代表同士で手渡しするのが1番いいのだ。
その理由は単純。世間に信憑性と信頼感を与えるために他ならない。金庫を手渡ししたとしても、その中身が分からない以上、偽物などのデマが出回りかねない。
だからこそ、中身を見せてこその効果。その絶大な信頼感はそこらの条約を凌駕する。
……だが今回、東京派閥と神奈川派閥はミスを犯した。
1つは、ウルトロンによる効果をあげるために、マスコミにその姿を生配信で放送させたこと。これによってハカセがテレビを見るだけで、タイミングを図ることができた。
そして、もう一つは…………
「俺と言う存在がいたことだッ!!!!」
瞬間、天井を突き破り、まだまだ光る太陽に照らされながら、俺が登場する。
みたところ、代表同士がウルトロンを手渡しするタイミングに突入できた様だ。
俺は一気に、その2人からウルトロンを奪い取る。一見、それは黒い正方形にしか見えないのですぐにわかった。
黒のジャケットをたなびかせ、まるでマジックショーのように俺は会場に突入する。
俺は驚く様な、恐怖するような目線を浴びながら高々と叫んだ。
「さぁ!! 魅せつけてやるよ!!!!」
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