残り3日

 そこから、1週間と3日が経った。


 場所は訓練所……初めて1ヵ月近く、本気の訓練をしてみたが、俺は身に付いた確かな強さを実感していた。

 拳の勢いや体の動かし方は、動くたびに聞こえる風を切る音がその速さを表現している。

 人間はどうやら、目標を抱くとどんなダメ人間でも成長させるらしい。

 仮想袖女との模擬戦はついに、互角に戦えるまでに成長していた。

 やはり長いこと袖女とだけ戦っていたせいでやつの癖や体の動きなどが予測できるようになったのだ。


 ……まぁ、あくまで袖女だけであってだからといってハイパーに勝てると言うわけではない。

 高校の勉強と一緒だ。数学の二次関数を覚えたからといって、三角比ができるようになったと言うわけではない。


 つまり、今の俺は対袖女用と言っても過言ではない。


「もし、袖女以外と対峙する場面になったら……」


 それは逃げるしかない。今回の任務は複数のハイパーがはびこる場所に潜入する危険なもの。例えるなら、大量のライオンのいる檻に、ネズミが一匹投入される様なものである。

 ウルトロンを強奪し、1分でも1秒でも早く離れること、それが今回の任務成功へのカギだろう。


 ……だが、同時に今の俺の力を試してみたい思いもある。


「へへへ……」


 あと3日、近づく運命の時に武者震いが止まらなかった。









 ――――









「あと3日……か……」


 ワシ、ドクトルは一旦テントに戻り、これからの方針を考えていた。

 伸太の今後の行動や、相手側の行動の予測など、考えることが山積みだ。

 だが、今1番悩むべきことは……


「……これ、どうするかのう……」


 前、伸太に話した情報は、1つ話していない部分があった。"東京派閥から、あの桃鈴才華が護衛として入ってくる"

と言う情報である。


 正直、これに関しては予想外だった。


 本来、伸太たちは戦場や任務に出て良い立場ではない。スカウトされる可能性があると言っても、歳にして16か17である。正直考えにくい歳だ。


(じゃが、こんなタイミングで投入してくるとは……)


 おそらく、任務といっても、今後使えるかどうかと言うテストも兼ねているだろう。


 ……ワシらが壊滅させたレベルダウンの穴埋めをしようと焦っているように感じられる。


(……まぁ、今の伸太が桃鈴才華に負けるとは考え難いがな)


 1番心配なのは、伸太の精神状態である。桃鈴才華を目にしたとき、どんな思いを抱くのか。どんな行動をとるのか。もし復讐心に飲まれ桃鈴才華を襲おうとすれば周りからの集中攻撃にあい、敗北は逃れられないだろう。


(伝えるのが正解なのか……伝えないのが正解なのか……)


 この前は保留と言う形で、言わないでおいたが……


(……面倒音が多いのう)


 だが……久々に感じるこのヒリヒリ感。


「悪くない」









 ――――









 その日の帰り。俺はテントでハカセと話していた。


「特訓の結果が如実に見えてきた。やっとこさだぜ……全く」


「そうかそうか! それはいい傾向じゃのう」


 俺の報告に、ハカセはうれしそうにうなずきながら喋っていた。


「……なぁ、伸太」


「? なんだ?」


「交渉が始まるまで、残り三日間なわけだが……この三日間はオヌシも出てみるというのはどうじゃ?」


「……なんでだ?」


「オヌシも十分に力がついてきた。もうあと3日特訓したところで、これ以上の成長は見られないじゃろう。ならば、残りの三日間は、交渉現場などを覗いてみたりして見るのが良いと思ってな」


「そういうことか」


 確かに、たった三日間特訓したところで、ごくわずかしか強くなれないだろう。ならば、その時間を使って情報を集めた方が良い……てわけか。


「それもそうだな……よし、俺も三日間、交渉現場とかを回ってみるよ」


「うむ」




 交渉が始まるまでまで…………あと三日。



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