ハカセの成果
その日の夜。
俺はテントに帰って来ていた。
そこにハカセの姿はない。まだ外へ出ているようだった。
今日は俺がコンビニ弁当を買ってくる日だったので、コンビニ弁当を食べながらのんびりと待つことにした。
30分後、ハカセは何も気にしていないかのように悠々と歩いて戻ってきた。
「今帰ったぞ〜」
「コンビニ弁当あるから勝手に食っといてくれ」
「おう」
そう言うとハカセは座り込んで、コンビニ弁当を食べ始める。
……数分後、コンビニ弁当を食べ終わったハカセは俺のほうを向いて発言してきた。
「情報をいくらか入手した……聞くか?」
そんな事を聞かれるが、俺の出す答えは決まっている。
「聞く」
「ほいほい」
そうすると、ハカセはポケットからメモ帳を取り出して俺に見せてきた。
「店主が言っていた場所の下見をしてきたが……建物がかなりの大きさじゃったな。山奥とかそういうものでもなく、A市の中心部に交渉用と思われる建物があった。間違いなくあれが交渉現場になのじゃろう。建物は大きな四角形。いわゆる豆腐建築の建物たった1つだけだが、中にいくつもの部屋があると思われるな」
ハカセからの情報を聞いて俺は、1つの案を提出する。
「じゃあ……その建物の中にウルトロンが運び込まれる前に強奪するってのはどうだ?」
これならば手っ取り早い。しかも、運び込まれると面倒くさい建物の中ではないため、いくばくかは奪いやすいはずだ。
「……いや、それは駄目じゃな。ウルトロンは神奈川派閥内でも屈指の代物じゃ。それこそほぼ100%、周りにチェス隊が防衛に入っているじゃろう」
「ならどうしろって言うんだよ」
「交渉会場に運び込まれた後、ひっそりと潜入し……東京派閥に渡される前に奪うしかなかろう」
そう言うとハカセはメモの1部をちぎって、こちらに渡してきた。
俺はそれを拾い上げ、確認する。
「……これは」
「会場の見取り図じゃ……全く、このワシに2週間以上時間をかけさせるとは……さすが神奈川派閥、といったところかの」
そこには、大雑把だがどこにどんな部屋があるかと言う会場の見取り図があった。
(すげぇ……何ヶ月かかっても手に入れられるような代物じゃないぞ……)
今回は、お互いの派閥にとって、最も重要な取引であると耳にしている。だから当然、神奈川も東京も情報漏洩や会場の監視などには、最新の注意を払っていたはずだ。
だが目の前の老人は、そんなもの知ったことかと言うふうに、俺の目の前に見取り図を出してきた。
改めて、目の前のハカセがすごい人物だということがわかる瞬間であった。
「でも、これを見たところで何になるんだ? 潜入するときに楽になるのは認めるが……」
「……取引が行われるのは、正確には見取り図の中央、1番広い大広間じゃ。そこでは取引の前にマスコミの入れる1時間ほどの別の会議が存在する。ウルトロンは別室に厳重に保管されておるから……奪うタイミングはそこしかなかろう」
「なるほどな」
つまりマスコミが入ることができる別件の会議が行われている隙に、ウルトロンを奪うと言う事だ。
……ただ、1つ確認せねばならないことがある。
「どれくらいの保管がされているんだ? 護衛とか…そこら辺はどうなっているんだ?」
ハカセに限って、そこら辺の説明をしていないのはありえないと思うが……
「……悪い、そこら辺の情報は掴むことができなかった……さすがにセキュリティーがかなり強くてな……これからも調べていくが、新たな情報を手に入れるのは難しいと思っておいた方がよいな」
「……そうか」
ハカセですらわからないとなると、これからの新たな情報は期待できないだろう。
神奈川も今回の交渉にかなりの力を入れていることがわかった。
もうすぐ始まる魅せ場に、少しのワクワクと期待を胸に膨らませ、今日はまぶたを閉じた。
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