人差し指に手が届く

 ……そこからさらに1週間が経った。


「はっ!!」


 風を切る音を立てながら振るわれた右腕は、しっかりと仮想袖女に向かって飛んでいく。袖女は両腕を使ってしっかりとガードしてきた。

 あの時から毎日、仮想袖女との模擬戦を繰り返していた。


 その結果…………


「ふっ……」


 袖女の右パンチの攻撃をしっかりと受け止めていく。


 そのタイミングでまるで示し合わせたように俺の左手からパンチが放たれる。


 その左手は……


 見事に直撃した。


「……よし……よし、よし!!」


 当たるようになってきた。勝負できるようになってきたのだ。

 仮想とは言え、戦えるようになってきたことに、俺は確かな実感を感じていた。


 戦えるようになった理由は、袖女の戦い方にある。


 袖女の戦い方は俺と同じく、近距離の殴り合いだ。近距離だったら、反射を持っている俺に軍配が上がる。

 そうなると、必然的に袖女は後ろに下がろうとするに違いない。

 そのため、後ろに下がろうとしたタイミングで何かを仕掛ければヒットする確率は上がると言うことだ。


 そこで俺は考えた。


 袖女が後ろに下がれないかつ、タイミングを図る余裕を作ることができる動き……





 そこで……俺が見出したのが……






 戦闘中、袖女の周りをずっとグルグルしまくることだった。



 ……まぁ、言いたいことはわかる。ふざけているのかと言いたいんだろう?


 違うんだなぁ〜これが。


 接近戦で殴り合いをしながら動くのだ。まるでボクシングのように、袖女の周りを回るステップを順不同に取ることによって、相手に下がるタイミングを見極めさせない上に、無理矢理下がろうとしても、俺の隙もないまま後ろに下がるなんて、まるで追いかけてくださいと言っているようなものである。


 この"相手の周りをずっとぐるぐるしまくる戦法"によって、袖女の長所を殺しつつ、俺の長所を最大限相手に押しつける動きが可能となったのだ。


 ……自分の心の中で何を言っているんだ俺は。


 とにかく、自分のスタンスを確立することができた。これは大きな1歩といえよう。


「いける! ……これなら……」





 リベンジだって夢じゃない。







 ここまで袖女との戦いを想定するのは、1つの理由があったからだ。



 ……それは1週間前、ニュースの話をしているときの出来事である。









 ――――









「あと、もう一つ」


「ん? まだ何かあるのか?」


 ハカセは、まだ用があるのかと、少し怪しむ感じの雰囲気を出してきた。

 だが、ここからが俺の本題であるため、報告しないわけにはいかない。


「……神奈川の入り口であったあの女……黒のポーンだったみたいだ……」


 驚愕の事実。俺がつかんだであろう最大の情報である。

 だが、それに対してハカセは……


「ぷっ……クハハハハハハ!!!! なんじゃ! そんなことか!」


「なっ……なんだよ! そんなことって!!」


 ものすごい事実だろうが。


「ヒーヒー……いやーすまんすまん!! あまりに簡単な事でつい……」


「なっ……! じゃあハカセは知ってたのかよ!?」


「知っておったぞ? そもそも、最初見た時から、あの黒い隊服はチェス隊じゃとわかっておったし」


 なんということだ。俺の目がおかしいだけなのだろうか。


(……まぁ、ハカセは情報屋なわけだからな……知っていて当然ちゃ当然か)


「あの女は隊服からもその戦闘力から見ても、チェス隊なのは間違いないじゃろう。今回の任務でまた遭遇するかもしれん。……その時のための対策をしておけ」


「…………」









 ――――









「次は必ず……殺してやる」


 俺の未来ふくしゅうは邪魔させない。




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