衣住食

 一度に1カ所しか反射できないと分かったところで1つの疑問が頭に浮かぶ。


(じゃあ、血で反射させるあの技はどういう扱いなんだ?)


 レベルダウンの時に見せたあの現象、あたりに俺の血が散らばっていればその血全てが反射されるあの現象。


 ……検証する必要がある。


 そう感じた俺は、手の甲を噛み、血を取り出す。


 その後、地を地面に2、3滴たらし、反射を発動させる。


 そうすると、あの時と同じように血をたらした部分それぞれが地雷のように破裂した。


 …………反射できる部分が1カ所ならば、血をいくらたらしたとしても、1カ所しか破裂しないはずだ。


(ゴムボールの時と何が違うんだ? ……反射する前との相違点はなんだ?)


 体の1部には両方とも触れていた。物によって違うと思われたが、ティッシュの検証結果でそれは否定されている。

 同じものなら全て反射すると言うなら、周りの一般の人が使っているゴムボールですらも反射するはずだ。


 ……なのに周りの人が使っているゴムボールは反射しない。


 ……やはりものによって違うのか……? だがあの時のティッシュは……


 いや…………ティッシュの事は一旦置いておこう。


 今、反射しようとしたものは……血……その前は、ゴムボール……


 ……体の1部以外は別判定なのか?


 こういう時こそ確かめればなるまい。


 善は急げだ。俺は右手だけで2つのゴムボールを手に掴む。

 そして、両手でゴムボールを1つずつ持っていた時と同じように、両方のゴムボールを反射する。その結果はゴムボールが1つだけ反射された。……正直、分かり切っていた結果。予想外の事は何一つない。


 ゴムボールが前に吹っ飛んだ後、新しいゴムボールを右腕に2つ掴む。


 右腕を前に突き出し反射を使うのだが、今回はゴムボールではなく、右手に反射を使用した。

 なんとその時、手の中にあったゴムボール2つともが前に飛んでいった。


「これは……!!」


 新たな新事実。


 反射するものではなく、反射させようとして触れた体の1部に反射を使うことで、その体の1部に触れたもの全てが反射できるという事だ。

 今思い返してみれば、東京本部に潜入するときの移動方法には無意識に足に反射を使っていたような気がする。


 ならば、体全体を反射できるんじゃないかと試してみたが、残念ながら不可能だった。


 この反射、血以外の部分の反射は1カ所しかできないのだ。


 ……致命的な弱点すぎないか?


 レベルダウンの無力化と同じだ。あれほど細かい部分しか反射できないと言うわけではないが、右腕だけ、左腕だけ、頭だけ……などといった風に体の1カ所しか反射を使用する事ができなかった。


 こればっかりは、なぜそうなるのかとか言う問題ではなく、そういうものなのだろう。


 どちらにしろ新しい事実だ。本番の前にこのことが知れたのは僥倖だ。


 どんどん検証していこう。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 結局、その後何の発見もなしに夕方の6時を回った。


 あたりに人はかなり少なくなり、空の色も夕方らしくなってきた。


 そろそろ帰ろうかと思ったその時。


(どうやって帰るんだ……?)


 ハカセの携帯番号なんて知らないし、そもそも携帯なんて持っていない。家を出たときに置いてきてしまった。


 少し悩んでいたが……


「おーい、そろそろ夕方じゃぞ? 早く戻ってこんかい」


 どこからともなくハカセの声が聞こえた。

 スチールアイを飛ばして、迎えに来てくれたのだろう。


「わかった、いまそっちに行くから場所を教えてくれ」


 そうして、訓練所を出てスチールアイのナビを頼りに、ハカセの下にたどり着く。駅前にいたハカセはいつものペストマスクとは違い、覆面のようなマスクをつけていた。


「遅れた」


「なぁに、心配いらんよ。少し早いが飯にするぞ」


 ……そうだ。普通なら夜ご飯を食べている時間だ。


 ……そういえば下水道の時から何一つ食べ物を口にしてはいなかった。気絶していた時間を考えれば、1週間と三日間ほど何も口にしていない。

 そう考えるとお腹が空いてきた。


「ほれ」


 ハカセは俺に、コンビニ弁当を渡してくる。


 今までが非日常すぎたせいで毎日食べてきたコンビニ弁当ですら懐かしく感じてしまう。

 弁当のふたを開け、ハンバーグ、ご飯、漬物の順に口にしていくが、やっぱり普通のコンビニ弁当だった。


「もうちょっといいのはなかったのか?」


「節約ってやつじゃよ、これからどれくらい金がかかるかわからんからなぁ」


 そう言いながらハカセもマスクを少しずらし、コンビニ弁当を口にしていく。


「そういや、寝泊まりはどうするんだ?」


 俺はそう言うと、ハカセは無言で何かのパンフレットを渡してくる。


「なるほど……無料のキャンプ場か」


 それは無料のキャンプ場のパンフレットだった。


 これならば何日滞在しようが違和感はない。しかもここから徒歩でもたどり着くほど近場のキャンプ場だ。


「テントは買ってある。これならば寝泊まりは心配あるまい」


 これで今後の心配はなくなったか。


 ハカセも1日では情報が集まらなかったのか、これ以上何も言う事はなかった。


 コンビニ弁当を食べ終わって数十分、キャンプ場にたどり着いた。

 さすが神奈川だ。無茶苦茶広いのはパンフレットの写真からわかっていたが、この地面の草、全てが人工芝でできている。さらに、周りにある木もおそらく生やした物だろう。無料のキャンプ場なのにかなりお金が使われているように感じた。


 早速俺たちはテントを立てて、寝床を作る。

 これで衣食住は安泰だろう。


 テントを立てているうちに、時刻は9時を回っていた。


「明日も早朝から行動していきたい。少し早いがここらで寝るとしようかの」


 ハカセに従い、俺もテントの中に入って横になる。



 今後の課題は山盛りだ。




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