訓練の始まり

「ん〜……」


 俺は今、地面に座り込み、悩んでいた。凄く、すごぉ〜く悩んでいた。


 その悩みとは……


「特訓って……何やるんだ?」









 ――――









 1時間前――


「よし、そうと決まればオヌシは訓練所へ行くんじゃ」


「訓練所?」


「うむ、神奈川派閥が取り入れた民間訓練施設じゃ。あそこならスキルの使用も認められているし、スキルを使っていてもそこまで目立たんからな」


 そんなところがあるのか、確かに神奈川派閥は数多の派閥の中でも、兵士の教育に力を入れている部分がある。

 それと同時に科学力も随一だと言うのだから、いかに神奈川派閥が優れているかというのが理解できる。


 俺はハカセから訓練所の場所と、所持金1万円を渡された。


 1万円を握り締めると、ふとした疑問が思い浮かんだ。


「……ハカセは何するんだ?」


 外に出ないと言うのならハカセは何をするのだろうか。

 その疑問に、当然といった感じで答えてくる。


「ワシは外へ出て情報集めじゃよ……」


「大丈夫なのか? ハカセも顔は知られているぞ?」


「ワシはオヌシほど警戒されておらんからな……ペストマスクを別のものにすればほぼばれんよ……それより、オヌシは自分の心配をするんじゃな。顔を晒しで外を歩くつもりか?」


 それもそうか、無駄な質問だった。


 俺はハカセと話し合い、俺は車の時に付けていたマスクを使うことになった。


 そのまま、ハカセの情報をもとに訓練所にたどり着いた――――









 ――――









「のは良いものの……」


 何をしようか、周りを見ると地面を凍らせたり、炎を吐いたり様々な訓練をしている様子が見て取れた。


 訓練所は、仕切られたグラウンドとほぼ同じようなもので、神奈川派閥にしてはかなり質素な作りだった。


(……やっぱり)


 今の俺にできることといえば、成長ではなく、改善だろう。1ヵ月も無いのに強くなることなど不可能だ。

 強くなると言うより、負けない様にすることを方針にしよう。


「うし…………」


 悩んだ結果……反射への理解度を深めることにした。


 俺はむくりと立ち上がり、無料で貸し出しされているゴムボールを両手1つずつ掴む。

 俺は右腕を前に突き出して、俺は右腕にあるゴムボールを拒絶する。

 そうすると、ゴムボールは俺の手から離れて、80キロ位の速度で壁にぶつかった。

 パコン、そう音を立てて、ゴムボールは俺のもとに戻ってくる。


 ここまでは普通の反応。次からが本番だ。


 次は両手のゴムボールを同時に反射しようとしてみる。


 両手を前に突き出し、両方のボールを拒絶してみると……


(……ほう)


 片方のゴムボールは飛んでいったが、もう片方は俺の手から離れず、指にかっちりと掴まれていた。


 なぜなのだろうか、反射できる場所は1度に1カ所なのだろうか、あるいは反射するものによって反射できる数が決まってくるのか。


 確認するために、次は訓練所に行く前の道路でもらったポケットティッシュからティッシュを2枚抜き取り、2枚とも1つずつ丸め、両方の手の中に入れて、前に突き出す。


 同時に反射を発動、結果を確認する。


 ……やはり、片方しか手の中のティッシュは粉々になっていなかった。


 今のところは、1度に1カ所だけなのが有力だな。

 これからは、この弱点も視野に入れて戦っていこう。


 そう決意した。



 …………俺の反射は、まだまだわからない事だらけだ。



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