幕間 護衛任務
その日から、僕は生気を失った。
いつぶりだろう。ここまで何の感情もない淡々とした日々は。
あっただろうか、ここまでつまらない日々が。
朝起きて、登校して、授業を受けて、たまに訓練する、家に帰る、寝る。
そこにいたはずの彼は、もういない。
――――
昼休み、僕はコンビニで買ったパンをかじっていた。
……味はあまり感じない。
「……桃鈴様」
「……なに」
「急用ですから……先生からの呼び出しです、ハイパー以上を全員収集しろと」
「……ふーん」
あの日、僕の手が届かなかったあの日から、雄馬くんとはあまりしゃべらなくなった。いつもと変わらずほとんど僕についてくるのだが、あまり喋りかけては来なくなった感じだ。他の3人も同じような状態である。
あの日から、約束通りご飯を無理にでも口にするようになった。おかげで体に肉が戻り、少しはマシになってきている。
(伸太はどこにいるかもわからずお腹が空いているかもしれないって言うのに……僕は……ああ! イライラする!!)
もしかしたら、お腹が空いて倒れているかもしれない。
傷ついてズタズタになっているかもしれない。
失って、大事なものに気づくと言うが、本当だとは思わなかった。
数日間、彼に会えないだけで心がざわつき、イライラが募っていく。
「桃鈴様? 聞いておられるのですか?」
「……聞いてるよ。今日の放課後、集合でしょ?」
「わかっておられればよろしいのですが……」
そう言って、雄馬くんはさも当然かのように僕の隣で弁当を取り出す。その行為に少しの苛立ちを覚えながら、無言で食べ続けた。
パンを食べ終え、さぁ戻ろうかと言うときに、都合の悪いことが起こると言うものだ。
「ここにいたんですね! 桃鈴様!」
「……優斗くん、
「桃鈴様! 今日もまた美しい!!」
「桃鈴様。すいません。このうるさい2人が……」
この2人は、
友隣ちゃん、雄馬くんと一緒に護衛騎士団なんて言われており、この学校でもトップクラスのハイパーの人物たちだ。ちなみに優斗くんは、雄馬くんの弟だったりする。
「ああ……ありがとう……」
「そうだ! ご一緒にお食事でもどうですか!? 我々の親交も深める良い機会になりそうだ!」
「あ〜……いや、遠慮しとくよ。最近大変だし」
「なっ……そ、そんな……」
宗次郎くんは、まさしくがっかりしているようなポーズをとり、肩を落とす。
こちらはもうここにいる意味はないし、校舎に戻らせてもらおう。
「……じゃあ僕、自分の教室に……」
「あ! じゃあ僕も同行しましょう!」
「あ、いや別に「お前が行くなら、私も行こう」「おい! 優斗! 何抜け駆けしてんだ! 俺も行きます!」「では、俺も同行いたしましょう」……」
なんてこった……
――――
「よし、みんな集まったな」
「というか、我々だけなんですね」
僕たちは放課後、体育館に集められた。
雄馬くんは、高橋先生の言葉に続くように言葉を述べる。確かに僕たちしか体育館にはいないし、そもそも体育館で、しかも僕たちだけに伝える物とは、何なのだろうか、少しドキドキしてしまう。
「うむ、これは君たちにしか勤まらない仕事だからね」
……仕事? 何を言っているんだ。僕たちはまだ学生だ。
仕事をする歳ではない。
「これから君たちに伝えるのは……護衛任務だ」
予想外の言葉が飛び出る。驚いたのは僕だけでは無いようだ。
「護衛任務……ですか? 職場体験もまだですし、そんなこと他のハイパーに頼んでおいた方が良いのでは?」
雄馬くんが至極まっとうな質問を述べる。
その通りだ、わざわざ僕たちにやらせる理由がわからない。
だが、高橋先生は待ってましたと言わんばかりに、口を開ける。
「これはただの任務ではない! 今回の任務は……神奈川への護衛任務だ」
神奈川。そう言った途端、他の4人の動揺を感じとった。
……特に男子の
「これから数日後に、神奈川と東京の取引が、神奈川で行われる……その時の東京の代表の護衛をしてもらいたいのだよ」
「なら、なおさら我々が行かない方が良いのでは?」
「人手が足りないのだ……他のハイパーは他の領土の守護をしているため、当日に任務に参加できない人員がいくつかいる……その穴埋めをしてもらいたいのだ」
なるほど、つまり数合わせと言うわけか、僕は神奈川に興味はないが反抗すると何をされるか……
「「「「了解、任務を開始する」」」」
もう、ほかの4人は了承してしまっていた。
「………了解しました」
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