欲望

「ふぅ〜」


 ワシは一仕事を終え一息をついていた。

 伸太はうまくやっているだろうか、あやつの顔が脳裏に浮かぶ。


(……まぁ、大丈夫か)


 伸太が負けるビジョンが浮かばない。何故かそういう信頼感があやつにはあった。


「ゴホッ……ガ……エ……」


「……! ほお〜、まだ生きとったのか」


 山のように積もった"血みどろの死体"の中でまだかすかに息があった様だ。


「……ナンデ……ウゴケタ……? 無力化シタハズナノニ……スキルモデキナイハズナノニ……」


 息も絶え絶えといった感じで発言する。何もしなくてもこいつはもう息途絶えるだろう。


(それに、無力化か……やはり此奴らはレベルダウンじゃったか。じゃが数が少ない。おそらくワシと伸太で分けて、両方潰そうとしたんじゃろうな……)


「残念じゃったなぁ? レベルダウン。お主らとワシでは、相性が悪すぎた」


「コタエロ……ナゼ……」


「教えてやるよ……ワシの心が読めたらな……」


 2つあるスチールアイを高速で動かし首に穴を開ける。この男はついにそれで息途絶えた様だ。


 ……まぁ、教えてやると言ってしまったし、心の中で位、答えてやるか。


 理屈は簡単だ。ワシのスチールアイは大きさを自由自在に変えることができる。それを利用し、常にスチールアイの大きさを変換させ続けた。いくらレベルダウンがスチールアイの動きを無力化したといっても『このサイズのスチールアイのこの動きを無力化する』という動きを全て無力化するには、いささか量が少なかった様だ。


「おーい、伸太、聞こえるか?」


 ワシは伸太に通信を送る。

 これは、状況確認と生存確認を兼ねている。返ってきたなら生きていて、返ってこなければ死んでいる。できれば生きていて欲しいものだが……


「…………あ……あ、ハカセか?」


 返答があった。それに思わずほっとする。

 レベルダウンと言う割にはこちらのレベルダウンは数が少なかった。おそらく伸太の場所にもレベルダウンがいるのだろう。


「伸太か!? ……ふぅ〜、正直心配したぞい。そちらの状況はどうじゃ? 何かあったか?」


 ワシと違い、伸太は東京本部である。そこに投入される戦力はワシとは比べ物にならないだろう。もしも、何かあって動けないのならばワシが急行しなければならない。


「ああ……今、交戦中だ」


「はぁ!?」


(あいつ何やっとんじゃ!?)


 これは一大事だ。反射があるとはいえ、伸太1人では限度があるだろう。もしかしたらレベルダウンに大苦戦を強いられているかもしれない。


「そこで耐えておけ!! ワシがすぐに向かう!!」


 声を荒らげて、東京本部に向かおうとしたその時。


「あ〜……ゆっくりでいいぞ?」


「は? ……オヌシ何を言っておるんじゃ?交戦中なんじゃろ?」


「いや……交戦中なんだけど……もっとやりたいって言うか……今めっちゃ楽しいし……」


「……へ?」


 楽しい? こいつは何を言っているんだ?


「……とにかく向かうぞ」


「おーう」


 スチールアイを人が乗れるサイズまで巨大化させ、その上に乗って本部へと向かう。一体、本部で何が起きているのか調べるために。


「……もうすぐか」


 5分ほど経った後、本部の近くへとたどり着く。


「なんじゃ?」


 そこで違和感に気づく、周りにマスコミや報道陣があまりにも多すぎる。まるで大きなスクープでもあったときのようだ。


 何か伸太が派手なことをやっているのだろうか。


 それにしても、ここまでの量のマスコミが集結することなどそうそうあるのだろうか。

 少し胸騒ぎを感じながら、スチールアイに乗り近づいていく。

 ついに、東京本部を目にする。


「これは……!!」


 飛び交う悲鳴、燃え盛る路上、大量の死体、


 その中心に。


 あやつは立っていた。









 ――――








「ひいいいいいいいい!!!!」


「うああああああ!!!」


「畜生おおおおおおお!!」


「取り囲め!! 取り囲めば勝てる!!!!」


 逃げ惑う警察官の頭をつかむ。

 反射すると爆散する。


 果敢にも立ち向かってくる警察官の腕を持つ。

 警察官の右腕が吹き飛ぶ。


 警察官が取り囲んでくる。

 腕を振って血をばら撒き、反射で爆散させる。


 繰り返す、繰り返す、繰り返す。

 まわりの目が、俺に突き刺さる。恐怖する目、畏怖する目、怒りを灯した目。確かにこの場の中心に俺は立っていた。


「おい! 伸太!!」


 スチールアイからハカセの声が聞こえる。


「いいかげん戻ってこい!! これ以上やるとハイパーが複数人やってくる可能性がある!! 場合によってはマスターが着かねんぞ!」


 ……さすがにそれはまずいか。


 今の俺では、正直ハイパー1人でも勝つのは難しいだろう。

 ましてやマスターなんぞもってのほかだ。

 そう判断すると、俺はくるりと後ろを向く。周りが少しキョトンとしているようだがそんなもの俺には関係ない。

 地面へ反射を使い天高く跳躍する。俺が立っていた地面には、大きなクレーターが出来ていた。





 10分ほどたった後、ハカセと合流する。既に東京本部から十分に距離を取れていた。


「伸太!!」


 ハカセは俺に近づき俺の両肩に手を乗せた。


「大丈夫か!? 怪我をしてるじゃないか!!」


 ハカセは俺の怪我を心配していてくれた様だ。

 いきなりの優しさに、正直驚いてしまう。


「……? どうしたんじゃ? 何かあったか?」


「いや……正直、あの時のことで責められると思ってたから……」


 そう言うとハカセは笑って、


「な〜に言ってるんじゃ、この世界に来た以上、そういう事はいつかせねばならんのじゃぞ? むしろ警察があんなことになってて痛快じゃったわい!」


 年寄りとは思えない快活な返事に俺は少し笑ってしまう。ほんとうにすっきりしたジジイだと思った。


「……なぁ、ハカセ」


「なんじゃ?」


「俺さ……あの時、警察を殺しまくったあの時……めちゃくちゃに……楽しいって思っちゃったんだ」


「……そうか」


「俺の力でみんなが怖がって……俺の力でみんなが逃げ惑うんだ……」


「……そうか」


「俺……いつも思ってたんだ。俺は強くなって何をしたいのかって、俺の夢ってなんだとかって……惨めだなって……よく考えてた……でも、やっと見つけたんだ」


「……そうか」


「俺……魅せつけたかっただけなんだ」


「……良い事じゃないか」


「俺は……これから魅せつけてやる。俺の力を……俺自身を馬鹿にした連中にも……これから出会う連中にも……魅せつけてやるんだ」


「それが俺の……欲望ふくしゅうなんだ」


 言いきると、急にめまいが起こる。今まで無意識的に無理をしていたのだろうか、だんだん体も痛くなってくる。

 体を倒しそうになると、ハカセが俺の体を支えてくれた。


「……悪い、少し眠る」


「……ああ」


 俺はゆっくりと瞼を閉じた。



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