後天性

「……どういう事だ」


 まるで意味がわからない。どう見てもこのペストマスクとは面識が無い。顔はマスクのせいで見えないし、黒いローブを着て帽子をかぶり、手には手袋を装着しているせいで肌色が全くわからない。情報量が少なすぎる。


「ん? まさかワシと面識ないからあやしんどるのか?」


「……当たり前だろ、いきなり知っているなんて言われても……」


「これじゃよ、これこれ」


 ペストマスクがそう言うと、空中に急に謎の球が現れる。これは……鉄球か?


「これがワシのスキル、鋼鉄眼スチールアイじゃよ。これでオヌシのことを観察しとったんじゃ」


 そう言うとペストマスクはメモを取り出し、そのページの1つを千切り俺に渡してくる。


「ちなみにワシの名前は……ドクトル、ドクトルじゃ! 気楽にハカセとでも呼んでくれ」


「なんでハカセなんだ?」


「その方がかっこいいじゃろ?」


 なんじゃそりゃ、と思いつつ渡されたメモを見る。







スキル名 鋼鉄眼スチールアイ


所有者 ドクトル


スキルランク super


スキル内容

 鉄を媒体にすることで、その鉄を球体にし、ドローンのように操ることで、それを通して視覚情報を得ることができる。最大5個まで同時運用することができ、その媒体のサイズも操ることができる。







 …………なるほど、中々、いやかなり使えるスキルだ。

 最大の特徴は操る鉄球のサイズを思いのままにできることだ。

 これでサイズを微粒子レベルにまで小さくすればまずバレないし、相手にあたるすぐ側まで近づいて急に大きくすれば、相手からすれば見えない何かに攻撃されたと思うため、攻撃にも使える万能スキルといえよう。


 ……ん? 見えない攻撃?


「アンタ……あの時の見えない何かの攻撃って……もしかしてアンタか?」


「アンタじゃない。ハカセと言えハカセと、まぁそうじゃな、急に来るもんだからついつい手を出してしもうたわ」


「ちなみにそれ、どれぐらいのスピードで動くんだ?」


「フル稼働させていると1つあたり時速50キロ、1つに絞れば120キロは出るじゃろうな。」


「……なるほど? 道理でアン……ハカセが一方的に知っているわけだ」


 謎は解けた。だが、


「何故俺をしらべていたんだ? 俺のスキルランクはイージーだし、調べる理由が無いだろ?」


 そう言うとハカセは……


「いやいや、あのデュアルハイパーの幼馴染じゃぞ? それだけで調べる価値があるじゃろ?」


 なるほどそういう理由か、ならば才華の幼馴染の俺を監視するのも納得がいく。おそらくその周辺も調べているのだろう。


「……それにな」


 ハカセは俺に近づくと


「こんなにいい……掘り出し物を見つけたんじゃからな」




 俺を見ながらそう言った。




「俺が……掘り出し物……? ……どうしてだ? 俺のスキルはイージーだぞ? 実戦で使えるレベルじゃない」


「確かにオヌシのスキルランクはイージーかもしれん。だがオヌシにはもう一つ……いい物があるじゃろ?」


「……あの時のか」


「そう、あの時の黒服2人を吹き飛ばしたあの現象……ワシが監視していた時は見たことがない現象であったし、オヌシ自身、驚いていた様じゃからあんな事今までなかったんじゃ無いかとおもうんじゃが……どうじゃ? ワシの読みは、当たっておるか?」


「……無かった」


「やはりのう……」


 この後ハカセは少し考えている様にうでを組む。

 俺にもあんなことに何故なったのかは分からない。あの時した事と言えば、"強く拒絶しただけ"だ。


「……何か……あの時、思った事はなかったか? 行動でも口にした言葉でもなんでもいい。何かなかったか?」


「まぁ……来るなとは思ったけど……」


 そう言うとハカセは少し黙って……


「よし……ならば今からワシがオヌシに触れる。それをオヌシは心の中で拒絶してみぃ」


「え?」


「よし、いくぞ」


「えっ、ちょっ、まっ」


 ハカセは急に俺の腕に触れようとしてくる。俺は慌てながらも言われた様に拒絶すると……


「なっ……!」


「……!」


 バチリ、と音を立ててハカセの手が俺の腕からはなれた。


「運命、とはこういう事を言うんじゃろうな……」


 俺は目から鱗状態だった。静電気だと思ったがこちら側に痛みは無いし、そもそも半裸なので静電気とは考えにくい。


「小僧……いや田中伸太、よく聞け、それは……スキルによって起きる現象じゃ」


「……え?」


 もうさっきから驚きの連続で頭が追いつかない。


 この現象がスキル? 俺の闘力操作が何か変化したのか? さっきからまるで訳が分からない。


「いいか? この力は…オヌシがもともと持っていたスキル、闘力操作では無い。全く別の……伸太、オヌシの新たなスキルじゃ」


 全く別の? ……ということは。


「俺も……2つのスキル持ちになったってことか……」


 実感がわかない。才華がスキル2つ持ちとわかった時もこんな感じだったのだろうか。


「だけど……スキルがこんなに遅く発現するなんて事例がない。才華のとはまるで事情が違う!」


 そう、高校に入学する直前、才華の剣術と持つ剣が白く発光する現象は同じものだと思っていた。

 だが、実際はその2つは別のスキルであり前々から2つのスキルの現象は小学生の頃から既に出ていた。


 ……だが、今の俺の現象は一週間前急に起こった物。才華のとは全く異なるものだ。


「事例は有る」


「ワシが……その事例じゃ」


 ハカセがさらなる爆弾を投下する。


「……え? ……じゃぁハカセも……」


「ああ、オヌシと同じ……"後天性スキル"の持ち主じゃ」



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