心の中

「後天性……スキル?」


 そんなもの聞いたことがない。そもそもスキル自体が先天的なもので、ほとんどガチャガチャのようなものだ。

 そのガチャガチャでレアなものを当てられたら勝ち組、ハズレだったら負け組。そういうものだとみんな考えていた。


「そうじゃ。ワシやオヌシの様に成長した後に発現するスキル……それが、後天性スキルじゃ……まぁワシが考えたんじゃがの」


 ……ハカセが考えたんかい。


 だが、意外と後天性スキルというのは的を得ているのかもしれない。


「発現するのが遅いスキル……ってことか」


「いや、正確にはそうではない。スキルと言うのは"きっかけ"なのじゃ」


「……?」


「……よいか? 人の能力というのはやってみなければわからない。絵が上手かったり、運動ができたりはその人間が実践しないとわからないじゃろ? じゃが、その人間が才能があるのに、運動しなかったり勉強しなかったりすればその才能があるかどうかはわからない」


「スキルはそれと一緒なのじゃ。スキルはあるのにそのスキルを発動させる行動……きっかけを起こさなければそのスキルは眠ったままじゃ」


「…………自論じゃが後天性スキルというのは他のスキルと違ってきっかけが難しいものだとワシは思っている」


「例えば、神速のスピードで走れるスキルがあったとしよう。それを発現させるきっかけが走る事だったとしたら、それはとても簡単じゃろ? じゃが札束をいくらでも出せるスキルのきっかけが一億円を手にすることだったら? それは幼稚だった頃に発現させる事は難しい。そうすれば、ワシらの様にスキルが遅く発現するのにも理由がつくじゃろう?」


「……つまり、スキルはスキルごとに発現に条件があって、その条件を達成すると、そのスキルが使えるようになるっていいたいのか?」


「まぁ、大まかに言うとそういうことじゃ。そうすればわしらのスキルはその条件が難しいスキルだったと言うことで説明がつくのじゃ。どうじゃ? ワシの自論は?」


 ……確かになかなか面白い。それがもし本当なんだとして科学的に証明されたらノーベル賞ものだろう。


「そしてオヌシの新たなスキル……反射と名付けよう。そのスキルはかなり強力なものの様じゃな」


 やっと手に入れたまともに戦えるスキル。なのに俺の顔は晴れなかった。


「もう……今更スキルを手に入れても……もう俺には……」


 生きている意味がない。そう言おうとしたその時だった。


「復讐したくは無いのか?」


 …………ハカセの声が聞こえた。


「馬鹿にされた連中に……コケにされた連中に……復讐したくは無いのか?」


 ………………………………フクシュウ…………


「……でも……でも……!」


 

 脳裏にちらつくあの笑顔、いつでも励ましてくれた言葉。それが俺の復讐への欲望を抑制する。


「……確かにあのデュアルハイパーはオヌシを励ましてくれたかもしれん。じゃが、最後にあやつはオヌシの努力を踏みにじった。笑ってなくそうとしたのじゃぞ?」



「……でも……あいつの為にも……」


「……オヌシは他人のことを考えてばかりだな……もっと自分を気にしろ、オヌシは何がしたい? 何をやりたい?」


 …………俺は。


「自分をさらけ出せ、自分がやりたかった事、自分が成し遂げたいことを言ってみろ。自分に……正直になれ」



(俺が……1番……)



 あいつの笑顔が消える。黒に塗りつぶされる。その黒の奥で眠っていた感情。気持ち、思いがむき出しになる。

 嫉妬、欲望、願い、痛み、渇望、そういったものが胸の奥からあふれてくる。それらが全部1つになって、ごちゃごちゃになって、ぐちゃぐちゃになって、1つになる。





 そして……全部混ざって、たった1つになった感情。





 …………復讐心。





「……してやる」


「復讐してやるッ!! 俺がッ! 俺の手でッ! 見下してきた連中を! 全て! ……そして見せてやるんだ。俺の力を! 全世界に! ……魅せつけてやるッ!!」


 その日……俺は新たな色に……いや俺の"新の色"に染まった。

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