一週間

「下水道……?」


「そ、あの下水道じゃ」


 ……下水道、2050年あたりまで使われた、汚水や自然水を流す通り道……みたいな物だったはず。

 だが、スキルの登場により水を生み出すスキルが生まれ需要が急激に落ち、閉鎖が決まった場所だったはずだ。


(待て……てことはこの水は……)


「あ〜安心せい、小僧が思っている事はないぞ? 上で取ってきた綺麗な水じゃよ」


 俺の顔色で察したのか、俺が言葉を発する前にペストマスクは答えてきた。


 ……まぁ、今は信じるしか無いだろう。


 ほっと一安心しつつ今一度周りを見渡す。床には段ボールが敷き詰められており、壁には下水道のコンクリートをそのまま使い、天井は木の棒で出来ていた。


「……ずいぶんと質素な家だな」


「そうかぁ? 住めば都と言うじゃろ? 住んでみれば中々良いもんじゃぞ?」


 俺の皮肉が入った言葉に対し、飄々とした態度でペストマスクは答える。俺は被せられている毛布を脱ぎゆっくりと起き上がる。


「……ッ、ふう……」


 体に痛みが走るが、立ち上がれない程では無い。俺は立ち上がった後、今の体をチェックする。……何度も三山に殴られたからだろうか。背中と脇腹の傷だけでなく身体中に大量の青アザが出来てしまっている。だが脇腹の刺し傷には包帯が巻き付けてあった。おそらくペストマスクが巻いたのだろう。

 これを治す為にも上に帰らなければ。


「あの……ありがとうございます。寝かせてくれた上に包帯まで……えっと、自分はもう大丈夫なので……上がる方法を教えて頂けると嬉しいんですが……」



「ん? ああ、このまま真っ直ぐに行って最初の右に曲がる通路を行けば着くが……」


 助かった。ここまで簡単に出口を教えてくれるとは思っていなかった。教えるにしても何か条件があると思ったので、とても有難かった。


「ありがとうございます!」


 ここは相手の機嫌を取る事が大事だ。さっさと切り上げて帰ろうとする。


「では、家族が心配するので……」


「だが……本当によいのか? このタイミングで帰ってしまっても。」


「……? 何がですか?」


「……まぁ、そりゃあそうか…………なんせ"1週間"たっとるんだからのう」



「…………え?」



 ……は? この男は今なんと言った?



 1週間? 1週間だと?


「はぁ!? 1週間!? そんなわけない! 俺はあの時、背中と脇腹にダメージを受けていただけなんだぞ!? 疲労で倒れたとしても1週間なんて! アニメでもあるまいし!」


「起きたんじゃよ、お前の言うそんなわけないことが、じゃなきゃそんな嘘はくかい」


 目の前のペストマスクは淡々とした口調で答える。そこから嘘の感じはしない。まさか本当に1週間が経っているのか? でも……


「……そうだとしても、1週間も俺が行方不明になっているんだ。俺だって東一の生徒、是が非でも探しに行くはずだ。」


 そう、高校と言うのは今も昔も印象が重要。もし学校から行方不明者なんて出してしまえば、印象が悪くなってしまう。それだけはなんとしてもあの学校の関係者が阻止してくるはずだ。


「……ほら、これ見てみ」


 そう言ってペストマスクは、新聞を俺に手渡してくる。


 新聞には、7月前半の日付がしてあった。


(……!)


 この時、俺はペストマスクが言っていることが真実だと言うことをわかってしまった。

 俺が歩いていたあの夜の日付は6月後半あたりだったはず、ということはこの新聞はあの時点では存在していない。これを証拠としてペストマスクは新聞を出してきたのだろう。


 ……そして俺は、目を疑うような記事を目にする。


『早朝に2人の死体!? 犯人は高校生か』


『早朝、民間人から人が死んでいるとの連絡を受け、警察が

向かうと黒いスーツをした男性2人が壁にもたれかかる状態で無残な姿になっているのを確認したと言う。

現場に落ちていたのはペットボトルとイヤホンであり、ここに付着している指紋と照らし合わせると、東京第一養成高等学校の2年7組、田中伸太君の指紋と完全に一致した。このことから警察は田中伸太君を容疑者として捜索しており、家族からの声も……』




「……なんだこれ」


「なんなんだよ!! これは!」


 我慢できず下水道に大声を響かせる。


「これじゃ……まるで……」


 俺が悪者みたいじゃないか。そう言葉を続けようとしたその時。


「悪者のようじゃのう」


 ペストマスクが割り込んでくる。まるで、お前の言いたいことなど手に取るようにわかると言いたげに。


「やっとわかったか?ワシの言葉の意味が」


「……ああ」


「今外に出ればすぐさま警察の手によって捕まり、酷ければ死刑、良くても刑務所行きか? それも数十年だろうな、お主は家族と1年前から絶縁状態じゃからそれっぽい言葉を出しても、擁護はしてくれんじゃろう。八方塞がりじゃな」


 ペストマスクの意見は全て的をついていた。このまま東京に行けば、すぐさま捕まるだろう。


 ……ん?


 違和感。変な心のざわめきが起きる。


 いや……え?


「あんた……なんで俺と家族の関係を知ってるんだ?」


 その質問にペストマスクは。


「ん? そりゃあ見てたからなあ、お主の事は」


 あたかも当たり前かの様に、そう言った――――



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